激闘、スリーマンセルバトル!!

全8校のバスターズアカデミアの代表選手が集う交流武技大会。イグニッシュ分校の校長の宣言により開幕した今、僕達は大会用の模造刀を持って対戦相手と対峙していた。

「第一試合とはツイてたな!!」
「…むしろ最悪だよ、あれ本当に学生か…?」

僕は目の前に立ちふさがる紫色の制服を纏った3人組を見据えた。その男子生徒たちは恐らく高等部、それも筋骨隆々でアルスでさえ小柄に見えるほどの大男たちだった。

「……リンブルクルム。」
「…らしいな!!この前助けた礼はきっちりもらってくぜ!!」
「返り討ちに遭わなきゃいいけどね……」

相手のリンブルクルムのチームも武器を構えた。そして、試合開始の笛が鳴り響く。

「先手必勝だぜぇ!!」
「……無謀。」
「アルス…!!」

誰よりも早く動いたのは、アルスだった。自分より二回りくらい大きい相手に、真正面から突っ込んでいくなんて。僕はやむなくアルスの後を追って走り出す。

「サンダー…ボルト!!」
「遅いなァ……!!」

僕の放った【サンダーボルト】は、苦もなく先頭に立った男に躱されていく。けれど、次の瞬間激しい打撃音が耳に飛び込んできた。

「っしゃあああ!!!」
「こんのクソガキィ…!!」

見ると、その男が躱した方向にはアルスの模造刀が迷いもなく振り下ろされていた。思わぬ反撃だったらしく、その男はアルスの一撃を受け止めながらも大きく後ろへよろけていた。

「いけるか…!!」
「させるものか、小僧。」

僕も追撃を仕掛けるべく、模造刀を振り上げて怯んだ生徒の懐へ飛び込んだ。だけど、次の瞬間には激しい衝撃と痛みを感じながら僕は地面を転がっていく。

「ぐぁっ……」
「…舐めるなよ。」

どうやら、僕は別の対戦相手に横から蹴飛ばされたらしい…信じられなかった、まさか目で捉えることすらできないなんて。

「何しやがるテメー!!」

アルスは逆上して僕を蹴った生徒に飛び掛かった。再び蹴りを放とうとする動作を見た僕はアルスに伝えようとしたけれど、腹を蹴飛ばされた衝撃で上手く声が出ない。

「無駄だ小僧……む!?」
「おせええええええ!!」

その生徒は確かに高速の蹴りを放っていた。けれど、アルスは素早くかがみ込み、その足の軌道は虚しくを切る。そして、一瞬無防備になったそいつの喉に、アルスが渾身の突きを繰り出した。

「ごふっ……」
「っしゃああああ!!1人目!!」

地面に倒れたそいつの喉と口からは、だらだらと赤黒い血が流れ出ていた。アルスが雄叫びを上げると、地震と間違えそうになるくらいに闘技場全体がどっと揺れた。

「まさか…力技で押し勝つなんて……」
「……強引ね。」

テリーも少し驚いたらしく、いつもより少しだけ目が見開かれていた。

「このクソガキ共がああああああッ!!!!」
「へっ、図体だけで調子に乗るなよな!!」

残った2人の対戦相手は激昂してアルスに向かっていく。アルスの方はニヤニヤ笑って模造刀を真っ直ぐ構えたまま動かなかった。

「あの馬鹿…!!」
「……心配ない。」

僕は慌てて【サンダーボルト】を放つ。けれど、相手も流石は各校の代表選手…無策に放った基礎魔法なんかが当たる訳もなく、2人の大男はアルスに向かって模造刀を振りかざした。

「俺達をコケにしやがった事…」
「後悔させてやるぜェ…!!」
「来やがれ……!!」

2本の模造刀が、容赦なくアルスに振り下ろされる……と思いきや、それらはアルスの脳天を砕くする直前、見えない何かに弾かれたように対戦相手達の遥か後方まで吹き飛んでいった。隣を見ると、テリーが右手をかざしながら口角を上げていた。

「テリーそれって…初めて会った時にも使った……」
「…物理障壁…封。」
「やっぱり……!!」
「何だか知らねえけど!!サンキューテリー!!」

アルスは丸腰の相手に向かって突っ込んでいく。僕だって、丸腰相手ならなんとか……!!

「うおりゃああああああ!!!!」
「てやああああああああ!!!!」

アルスと僕の模造刀が、それぞれ相手の顔面にクリーンヒットする。3人の対戦相手を全て倒した僕達はその瞬間、大歓声に包まれた。

「すげえなあのガキンチョ共!!リンブルクルムの代表に勝っちまいやがった!!」
「イグニッシュの子達、少等部よねぇ?末恐ろしい子達…」

勝った……僕は正直、信じられないような気持ちと想像以上にあっさりした感覚の間で心が揺れているような気分だった。

「やったなエンヴィー、テリー!!」
「……。」

アルスは大きな身体で子供みたいにはしゃいでいる。テリーはいつも通りの鉄仮面に元通りだ。

「…とにかく、一度控室に戻ろう。次の対戦が始まってしまうからね。」

僕達は歓声を背中に浴びながら、闘技場を後にした。

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控室に戻った僕は、テリーに率直な疑問をぶつけてみることにした。

「ねぇ、テリー。1つ訊いてもいいかい?」
「……」

テリーがこくりと頷いたのを見て、僕は続けた。

「防御結界だよ、さっきの物理障壁はその1つだろう…どうしてきみが使えるんだ?あれはかなり高位のバスターでも扱える者が限られているはずだ…」
「……知らない。」
「知らないって、お前自分の事だろ?」

アルスが怪訝そうな顔で横槍を入れてきた。僕はテリーをじっと見つめて言葉の続きを待った。

「…貴方は自分が頭の悪い理由を説明できるの?…つまりそういう事。」
「なるほどなぁ……っておいテリーお前!!そりゃどういう意味だよ!?」
「落ち着けアルス、事実だろう……要するに、きみには防御結界を扱うことに関して高い適性を持っている…?」
「……そうよ。」

肯定したテリーの表情が、一瞬曇った気がした。ふと目をそらして隣のアルスを見ると、僕の口撃に落ち込んでしまったらしく椅子の上で体育座りをして塞ぎ込んでいた。

「そりゃあ、オレはバカかもしれないけど…みんなして言わなくてもいいだろ……」
「あぁ…悪かったよアルス、試合に勝てたのはきみのおかげだ。だからそう気を落とさないで、」
「そうか!?やっぱそうだろ!!あっはっは、決勝まで任せとけ!!」
「………バカ。」

実に切り替えの早い奴だ。テリーの方を見てみると、テリーも僕を見ていた。どうやら考えている事は同じらしい。

「……続いて準決勝第2試合を行う!!イグニッシュ分校とエリドナ分校の代表選手は、闘技場へ!!」
「おっ、オレ達の出番だな!!行こうぜ2人共!!」
「相手は勝ち上がってきた猛者だ、とにかく怪我をしないように……」
「………楽勝。」
「………もういい、好きにしてくれ……」

こいつらのこの自信は一体どこから来るのか…でも間もなく、僕の不安は一瞬で消え去ることになった……。

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「それでは…試合開始!!」
「私達エリドナ分校は伝統深き乙女の学び舎……その実力、見せ付けて差し上げますわ!!」
「女がどうしたぁ!!なんでもいいからかかってきやがれ!!」

アルスが意味もなく挑発すると、エリドナ分校代表の女子生徒達はこぞって魔力を掌に集中し始めた。

「なぜ挑発するんだ……!!」
「……悪くないわ。」
「え……?」

テリーの呟きに一瞬気を取られた隙に、『それら』は飛んできた。

「私達の全力ですわ!!」
「貴方達少等部のお子様は初めて見るでしょうけれど!!」
「悪く思わないでくださいまし!!」

僕達の元へ飛んできたのは、激しい火炎弾と鋭い氷の刃に、眩い電撃の槍。【フレイムブラスト】、【アイスエッジ】、【プラズマスピア】…どれもアカデミアで学ぶことは無い中級クラスの魔法だった。

「まずい……!!」
「…無駄。」

テリーが右手をかざす。すると、僕達の前に大きな障壁が発生して飛んできた魔法をそのまま飲み込んだ。

「「「なっ……!?」」」
「…魔法障壁…封……」
「よっしゃ!!ナイスだぜテリー!!」

恐らくはその規格外の魔法攻撃で勝ち上がったのであろう3人の女子生徒は、目の前で起こったことが理解できずにおろおろしている様子だった。そこへアルスが容赦なく突っ込んで行った。

「くらえええええ!!!!」

逃げ惑う3人を、アルスが模造刀で袋叩きにしている。あれじゃあ試合というよりただの暴漢だ。

「くそっ、逃げるんじゃねえ!!」
「くっ…もう一度魔法を……!!」
「……面倒。」

僕がどうしようか迷っているとテリーが動いた。かざしていた右手を、地面に振り下ろす。テリーの【アースエッジ】がアルス達が戦っている場所の地面を一気に崩し、アルスとエリドナの3人がその場に崩れるように倒れ伏せた。

「おい、オレも巻き込まれたぞ!?」
「………エンヴィー、よろしく。」
「え、あぁ、うん……」

すごく、場違いな気分だった。各校の代表なんて、ずっと先にいる存在だと思っていた。だけど、アルスもテリーも、僕と変わらない歳なのに負けるどころか圧倒していて……僕は…ここに居ていいのだろうか…。

「…サンダーボルト!!」

迷いを吹き飛ばしたくて、僕は精一杯の魔力を込めた。【サンダーボルト】はアルスだけをきっちり避けて、エリドナの3人を次々気絶させていった。けれど…僕の心は、晴れないままだった。

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その後の事はあんまり覚えていない。きりがかかったようなぼんやりとした感覚…気が付けば、僕達は交流大会の決勝戦の場に立っていた。

「我が名はロイディア分校主席…ファーストだ。お手柔らかに頼む。」
「ファーストぉ?それ、お前の名前なのか?」
「ロイディア分校では上位の生徒に称号と特権が与えられ、その称号を名乗って過ごすのだよ…私はセカンドだ。」
「吾輩はサードだ。」

ロイディア分校…8つある分校の中でも最も歴史が古く、優秀な人材が集まるらしい。その高貴そうな制服や、奴らが語った文化からもそれが感じ取られた。

「…なんだそりゃ!?お前らヘンだな!!」
「………安直。」

僕の仲間達は、いつも通りだった。僕だけが、心に小さなもやを抱えたまま。でも、そんな事を誰かが気付くこともなく、最後の試合は始まった。

「それでは決勝戦……開始!!」
「っしゃ行くぞおおおおおおおおお!!!!」

いつも通りにアルスが真っ先に特攻をしかける。だけど、今度の相手は今までとは違っていた。

「…良い思い切りだ。だが……」
「なっ!?こいつ……!!」

アルスが殴りかかったファーストは、全く動じずにアルスの一振りを左手一本で防いだ。体格では決して見劣りするわけじゃなかったけれど、アルスは徐々に後へ押し込まれていく。

「くっ……!!」
「太刀筋は子供のそれだな。剣とは、こう振るうのだ!!」
「……待ってた。」

ファーストが右手で模造刀を掲げ、振り下ろす。その瞬間に、テリーは【物理障壁・封】をアルスの周囲に展開した。なら、僕は……。

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「むっ!?」
「ナイスだぜテリー!!おりゃああああああ!!!!」

テリーの事は正直苦手だ。でも2回も助けてもらっちゃあ、認めないわけにはいかないな。お礼はこいつを叩きのめすってことで、まずは一発、ファーストの頭に1発お見舞いしてやることにした。

「やはり、先の試合でも見せていたのは防御結界か。」
「それがどうしたああああああ!!!!」

2発、3発、オレは全力でファーストのヤツをぶん殴る。だけど、流石に偉そうなこと言うだけはあって、真正面からじゃ少しも攻撃が通る気がしなかった。

「……防御結界、だけじゃない。」

テリーが【アースエッジ】でファーストの足元を崩してくれた。今度は、オレも巻き込まれずに済んだらしい。

「少等部と見くびっていたが…できるようだな。」
「うおおおおおおおおおおお!!!!!」

崩れてボロボロになった地面に足を取られながら、ファーストはオレの攻撃を腕だけで防ぎやがる。オレは模造刀を握る手に力を込めた。もっと、もっと強く……!!

「……アースエッジ。」

その時オレは、ファーストの背後で抉れた地面がふわふわと浮かび上がって、ファーストの頭上まで動いてきたのを見た。そして……。

「ぐっ……」
「………1人目。」
「うわ、痛そう……」

浮かんだ大岩は、そのままファーストの頭に落ちた。鈍い音と共に、ファーストは気を失ってそのままがっくりと項垂れた。

「ってかテリー!お前そんな事もできるのか!!」
「……アルスが気を逸したから。普通は、当たらない。」
「連携プレーってヤツだな!!よし、あと2人だ!!」
「………。」

黙って頷いたテリーとハイタッチをしてから、オレ達はエンヴィーの方へと向かった。

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「はぁ…はぁ……」
「…やるな、小僧。」
「よもや、我々2人を相手にここまで粘るとはな…。」
「…時間稼ぐだけなら、僕にだって…!!」

僕は、セカンドとサードの猛攻を掻い潜りながら息を切らせていた。僕にできること、それはアルスとテリーがファーストを倒すまでの時間稼ぎだった。もしファーストが2人を倒してしまったら、僕は背後から挟み撃ちを食らってやられるだけ…でも、あの2人ならきっと……。

「だが、遊びはここまでにしよう…サンダーボルト!!」
「うわっ…」

セカンドの放った【サンダーボルト】は、速かった。僕の使うそれとは比べ物にならない速度で飛んできたその電撃は、たちどころに僕の全身に迸り、身体の自由を奪った。さらに、サードの模造刀が僕の頭上に振り下ろされた。

「ここまでか……」
「ここまでで十分だぜ!!」

その時、アルスが僕とサードの間に割り込んで模造刀を弾き返した。テリーも後からやってきて、僕の身体をそっと起こしてくれた。

「すまない…そうだ、ファーストは…?」
「………楽勝。」
「はは、流石だね…」

テリーに支えられながら身体を起こすと、アルスはセカンドとサードを睨み付けて身構えていた。

「さぁ、どっちから来やがる……!!」

アルスの問いに、奴らは力で応えてきた。セカンドの【サンダーボルト】が、凄まじい光と音を発しながら地を這うようにアルスへ迫った。

「魔法障壁……破。」
「ぐあっ……」

だけど、【サンダーボルト】を食らったのは、アルスではなかった。電撃はアルスに命中する直前で反射して、そのままセカンドを襲ったのだった。僕がびっくりしてアルスとセカンドを交互に見ていると、テリーが隣でボソっと呟いた。

「……これで2人目。」
「…!!そうか、今のはきみが…」
「お前達の核は貴殿か小娘…!!」
「テリー危ねえ!!」

突然アルスの声が響く。すると視界の端から、何かが凄まじい勢いで飛び込んできた。テリーはそれにふっ飛ばされて闘技場の端に転がっていた。

「……油断した…。」
「障壁が強固ならば、展開させねば良いのだ。」

そう言いながら、サードは模造刀を至近距離で振り回し始めた。テリーは間一髪で躱しているけれど、接近戦は苦手らしい。とても長く耐えられる様子ではなかった。

「エンヴィー!!」
「あぁ……!!」

正直、僕自身もさっきの【サンダーボルト】の直撃でボロボロだった。それでも、アルスの声に応じて精一杯地面を蹴る。ここで動けなきゃ……僕は、アルスやテリーと一緒に戦場に立つ資格が無い。

「サンダーボルト!!」
「無駄だ。」

僕の放った【サンダーボルト】を、サードは振り返りもせずに剣を振るって薙ぎ払った。そこへアルスが猛突進していく。

「うおおおおおおおおおお!!!!」
「吾輩はサードの称号に甘んじてはいるが、この武力はロイディア分校一…甘く見るな……!!」

アルスの全力の一撃を受け止め、サードにはなお余裕があるように見えた……でも、その余裕は一瞬で消え去った。

「……慢心。」
「何…!?」

テリーがサードの無防備な背中に駆け寄っていく。そして華奢な足を振り上げてサードの足を蹴飛ばして払った。バランスを崩したサードは地面に仰向けに倒れ、それをアルスが抑えるように倒れ込んだ。

「今だエンヴィー!!オレごとやれ!!」
「アルス!?」
「いいから!!」

迷っている時間は……無かった。サードは押さえ込んだアルスを引き剥がして起き上がろうともがいている。ここを逃せば、僕達に勝機は残されていない。

「………行くぞ…!!!」
「己、小僧共に…我々が……!!」
「サンダー……ボルト!!」

生じたのは、たった1本の電撃。僕の、全力だった。放った電撃はサードと、それを抑え込むアルスの全身に流れ込んだ。サードが動かなくなるとアルスはゆっくりと立ち上がり、そしてそのまま倒れた。それを見届けたところで、僕の視界も揺れて、消えた。遠くで聞こえる大歓声が徐々に小さくなるのを感じながら、僕の意識は遠のいていった。

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「……信じられない。あんな雑魚が、優勝?」

私は、その戦いを客席の端で見届けていた。けれど、とても見られたものじゃない、酷い試合だった。

「あんな奴ら…私1人でも……ちっ」

外套をまとい、舌打ちをして闘技場を出た。もう、次の行き先は決まっている。

「イグニッシュ……待ってなさいよ……」

無様に負けたエリート気取りの勘違い男共と、泥臭いイグニッシュ代表チームに背を向けて、私は走り出した。でも、この時の私は、この選択が私の運命を大きく変えることなんて、知る由も無かった……。