激突、二対の双刃

惑星リリーパの地下坑道エリア。入り組んだ地形のその隅で、うずくまる少女が1人。

「私は……私は………」

その少女、フィリアは虚ろな目をふらふらと泳がせながらうわ言を呟き続けていた。

「……やっと、見つけましたよ。」
「っ……!!」

そこへ、黒衣を纏った少女が訪れる。黒衣の少女えくれあは、眼鏡の下に光る紅と碧の瞳で、フィリアを真っ直ぐに見下ろした。

「……何しに…来たのよ……」
「何って、迎えに来たんだよっ!!フィリアちゃんっ!!」

えくれあの後ろから、一緒に居たエーテルも声を上げた。2人共、真っ直ぐにフィリアを見つめ、手を差し伸べていた。それが……フィリアには何よりも許せなかった。

「何が……分かるのよ……」
「フィリアちゃん……っ?」
「大切な人が…一緒に過ごせる姉妹がいるあんた達に……」
「…………」
「一体何が分かるって言うのよ!!!!!」

フィリアの叫びに呼応して、その身体からフォトンが溢れ出す。えくれあは、それに応えるように愛剣《ブランノワール》を抜き出した。

「…今のあなたに、恐らく言葉は無意味ですね…。私が相手になります、どこからでもかかって来なさい。」
「そうやって人を見下した目をして…あんただけは、殺してやる……!!」

フィリアの《ノクスネシス》が閃く。一瞬の内に距離を詰めたフィリアは《クイックマーチ》でえくれあを打ち上げようと試みた。

「………。」
「ちっ……余裕見せてんじゃないわよ……!!」

最低限の動きでフィリアの斬撃を躱すえくれあ。フィリアはそこに《オウルケストラー》で追撃を図る。

「死ね!!死ね!!あんたなんか!!何でも持ってるあんたなんか…!!」

怒涛のように繰り出される連撃を、えくれあは冷静に躱し続けた。

「…イモータルターヴ」
「ちっ……」

えくれあの一振りに距離を取って対応するフィリア。えくれあはそっと目を閉じて、口を開いた。

「…そうですね、今のあなたからすれば私は何でも持っている……信頼できる仲間も、愛する家族も…ええ、あなたの言う通りです。」
「くっ………」
「だけど、あなたは大切なことを忘れています…あの日、ルーサーが口にした事実は、確かにあなたにとって耐え難い事実だったかもしれない……けれどあの時、同じ苦しみを味わっていたのは…フィリアさん、あなただけじゃないはずです。」
「っ………」
「フェデルタさんもまた、思い悩んでいました。チームを離れ、今も自分の答えを見つけるためにどこかで戦っています……あなたは、逃げ出すと言うのですか……!!」
「黙れ……黙れ………」

フィリアが頭を押さえながら呻く。それを意に介さずに叫んだえくれあ。その瞬間、全身から紅いフォトンが吹き出し、両眼は同じ真紅に輝き出した。

「私はあなたを連れ帰る……!!例えあなたに憎まれようとも構わない、それであなたが現実と向き合い、前を向いて生きていけるならば……!!」
「黙れええええええええええ!!!!!知ったような口を聞くなああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」
「フィリアちゃんっ!!」
「姉さん、下がってください!!」

飛び出そうとしたエーテルを制して、えくれあは両手の愛剣を握る力を強める。そして、暗く歪んだフォトンを纏うフィリアを、真っ直ぐに見つめた。

「死ね、シンフォニックドライブ…」
「導け、ディストラクトウィング……!!」

フィリアの蹴撃とえくれあの斬撃が真正面からぶつかり合う。

「くっ……」
「この程度………!!」

上から蹴りつける形のフィリアを、えくれあは強引に力で斬り払う。周囲に紅いフォトンが舞い、フィリアの身体が大きく後方へ吹き飛ばされる。フィリアは恨めしげにえくれあを睨みつけ、再びえくれあに襲い掛かった。

「レイジングワルツ……」
「打ち払え、ジャスティスクロウ…!!」

再度のフィリアの強襲を、えくれあはその拳で迎え撃った。紅いフォトンはえくれあの拳に纏い、フィリアの双小剣が触れる前に弾き飛ばしていく。

「なんで……殺せないのよ……」
「そんな事、決まっています………」
「………ふざけないで………!!」

フィリアはふらふらと立ち上がり、そのままおぼつかない足取りでえくれあに近付く。そして力の無い動きで双小剣を引き下げた。

「…クイック……」
「ジャスティス、クロウ……!!」

フィリアが双小剣を振り上げる前に、えくれあは紅いフォトンを纏ったその拳を開いた。そしてその開いた掌をフィリアの頬に力一杯叩き付ける。フィリアの身体は踏ん張ることもできずに吹き飛び、地面を転がった。えくれあは転がったフィリアに歩み寄り……手を差し出した。

「……もう殺して…好きにしなさいよ……」
「…まずさっきの質問の答えです。あなたが私を殺せないのは、本当は殺したくないから。私があなたより強いのは、あなたが私を殺したい気持ちより、私があなたを助けたい気持ちが強いから…それだけです。」
「なんで…私なんかを…」
「決まってるじゃないですか…」

涙を流しながら問うフィリアに、えくれあは優しく微笑んで答えた。

「あなたは私の仲間だから…それ以上に、助ける理由が要りますか?」
「っ……」
「私も、姉さんも…父上もフェデルタさんも、もちろん他のチームの皆さんも。みんなあなたの帰りを待っています………あなたが、そう望みさえすれば。」
「でも…私の家族は…お兄ちゃんは……」
「…そうですね、あなたの兄だった人は、もうこの世にはいません…だけど。」

泣き縋るフィリアを抱き締めて、えくれあは囁いた。

「居ないのならば、これから作り出していけばいい…血は繋がっていなくても、フェデルタさんはあなたを妹のように想っているはずです。」
「えくれあ……さん…私……!!」

えくれあの胸に顔を埋めて声を振り絞るフィリア。えくれあは笑顔のまま、フィリアの頭をそっと撫でた。

「みなまで言わなくても大丈夫です……さぁ、帰りましょう。」

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それから、えくれあとエーテルはフィリアを支えながら地下坑道の出口へと向かって歩いていった。

「フィリちゃんだいじょぶっ?」
「…え、あ、はい…大丈夫です……」
「…何ですか、その『フィリちゃん』って。」
「ほら、せっかく帰ってきたんだから何かあだ名があると良いかなってっ!!」
「意味が分かりません……はぁ」
「……ふふ、ありがとうございます。ぜひ、そう呼んでください。」
「ほんとっ!?えっへへ~」

他愛もない話をしながら歩く3人。やがて地下坑道の出口に辿り着き、砂嵐舞う砂漠が見えてきたその時だった。激しい揺れと大きく鈍い音。バランスを崩したフィリアを支えながら振り向いたえくれあとエーテルが見たもの…それは。

「嘘っ!?どうして…っ!!」
「ダーク……ビブラス………!?」

遍くダーカーの中でも最も恐ろしい種の1つ《ダーク・ビブラス》が、突如としてえくれあ達の前に立ち塞がったのだった……。