面積の大部分を大海によって占められた惑星・ウォパル。その海岸エリアを闊歩するのは、1人の少女だった。
「おー!!良い日差し!!相変わらずここは良いところだなー!!」
緑髪にベレー帽を被り、眼鏡をかけたその少女・メイは、誰がいるわけでもないのに呑気に大声を発しながら楽しそうに海岸沿いを歩いて行く。当然、その声に刺激された海王種達は声の主に群がり、たちまちメイは包囲される形となってしまう。
「うわ、なんか寄ってきた!!やんのかあ~??おらあ~??」
メイは楽しそうに海王種達に向かって叫びながら、腰のツインダガーに手を掛ける。その時、遠くの方から別の少女の声が響いてくる。
「メイさ~ん!!」
「おー?あれは確か?」
走り寄ってきた青髪の少女は、既にその手に銃剣を構え、メイを取り囲む海王種達に向けて《アディションバレット》で威嚇射撃を行った。
「あっと、これじゃダメで……そ、それっ!!」
青髪の少女はぎこちない手つきで銃剣《ノクスシュディクス》を剣形態に変化させ、1体の《トルボズン》に向けて斬り掛かった。
「そ、それっ、トライインパクト!!」
少女の放った《トライインパクト》は見事に《トルボズン》を貫いた。しかし、その脇から《アクルプス》が2体、少女に襲い掛かる。
「くっ、れ、レイジダンス!!」
少女は慌てて《レイジダンス》を繰り出して迎撃する。しかし、繰り出される無数の剣撃はその内の数本が当たるのみで、《アクルプス》達は依然少女目掛けて突進している。
「おいおい大丈夫―?それそれいくぞー!!」
メイは軽いステップで少女を狙う《アクルプス》達に接近する。そして何のためらいも無く《ワイルドラプソディ》で2体を纏めて斬り裂いた。
「すごい…!!」
「お?あんたはこの前のー!!」
「あ、はい!!フィリアです!!メイさんに用事があって…」
「用事かー!!でもまずはこいつら仕留めてからだねー!!」
メイはニカっと笑みを浮かべると海王種達に向き直る。そして今度は武器を両剣に持ち替えて一気に駆け出した。
「おらぁー!!トルネードダンス!!」
それは、竜巻の如き猛攻。メイの放った《トルネードダンス》は海王種達を1匹残らず巻き込み、屠っていった。
「ふぅ―!!おとといきやがれー!!」
「あ、あの…ありがとうございます!!ごめんなさい、助けるつもりだったのに…」
「別にいいって―!!それより、どうしたってあたしに用事ができるのさー?」
「そ、それは…!!」
フィリアは大きく息を吸い込み、頭を下げて叫んだ。
「わたしを…メイさんの弟子にしてください!!!!」
「おー…おお?」
メイは、目をぱちくりさせて目の前のフィリアを見つめ返していた。
数十分後、メイは楽しそうにフィリアへ語りかけながら歩いていた。
「あたしはさ!!こう、くるくるっとして…どかーんって感じなわけ!!」
「くるっとして…どかーん?」
「違う違うー!!くるくるっと!!あーでもあんたの場合はしゅばばばばば!!の方が…」
「は、はぁ…(あれ、わたしもしかして頼む相手間違えた…?)」
メイの擬態語だらけの説明に、フィリアは困惑しながらも何とか理解を試みていた。
「え、ええ~っと、難しいんですね…!!」
「んー?そうかなー?」
メイはフィリアの困惑には気付く素振りも見せず、にこにこしながら話し続けている。
「あ、でもさー!!」
「でも…?」
突如メイは話の流れを変え、またしてもメイの大声に寄ってきたダーカー《リューダーソーサラー》と、その手下の《ブリュンダール》3体に身構える。
「楽しむことが大事なんじゃないの―!!」
「えっ、楽しむ…ですか?」
「そうそう!!楽しくなきゃ上手にならないでしょー!!」
「そういう…ものでしょうか…」
フィリアも、考え込みながら銃剣を構える。
「楽しく…楽しく……やってみます!!」
「お―!!その意気だよ―!!」
メイは再びニカっと笑い、駆け出すフィリアの後方を走り出した。
「行きます……シュトレツヴァイ!!」
フィリアは銃剣を縦に振り抜き、次の瞬間猛スピードで前方の《ブリュンダール》の1体に斬り掛かり、そこから数度《ブリュンダール》のコアを斬り付けた。
「まだまだ…です!!」
フィリアの攻撃はそれだけに留まらず、素早く銃形態に変化させて周囲に高速で銃弾をばら撒いた。《シュトレツヴァイ》の変形攻撃を受けた《ブリュンダール》達は大きく吹き飛び、剣形態での連撃を受けた1体はそのまま絶命した。
「おおっと!!頑張ってる愛弟子の邪魔をしないでもらおうかー!!」
メイは《リューダーソーサラー》がフィリアに向けて鎌を振り上げて近寄るのを見ると、《レイジングワルツ》で素早く打ち上げた。
「まだまだ行くぞー!!おらおらぁー!!」
打ち上げられた《リューダーソーサラー》に、メイの《クイックマーチ》、《オウルケストラー》、《シンフォニックドライブ》が襲い掛かる。怒涛の猛攻を受けた《リューダーソーサラー》は、為す術も無くその場に沈んでいった。
「これで終わりです…クライゼンシュラーク!!」
その少し前方で、残った2体の《ブリュンダール》に挟撃されたフィリアも、《クライゼンシュラーク》で反撃を試みる。身体を捻りながら銃弾と斬撃を飛ばしながら、それに巻き込まれた《ブリュンダール》2体を確実に撃破した。
「で、できた……!!」
「おー!!やるじゃんやるじゃん!!」
肩で息をするフィリアに、メイがぽんと頭を叩いて激励する。
「元々撃つの上手いし、それだけできれば大丈夫さ―!!」
「あ、ありがとうございます……!!」
疲労の色を見せながら、フィリアは喜びと照れが入り混じった笑顔でメイに応える。しかし、その瞬間に異変は起こった。
「…あれ?あの高波、なんでしょう…?」
「おー?どれどれー??」
フィリアが海辺に不自然な高波が発生したのを見つけ、メイもそれを覗き込む。高波は近付いてくるにつれてどんどん大きくなり、やがてそこから巨大な海王種が姿を表した。
「お、オルグプラン…!?」
「ほー、めっちゃでかいな―!!」
少女たちの2倍はあろうかという高さから、《オルグプラン》はフィリア達を睨み付けていた。
「あ、あの…どうしましょう…!?」
フィリアは薄々答えに感付きながらも、恐る恐るメイに問いかける。
「決まってんじゃーん!!こいつやる気満々の目してるし、あたしもやる気満々だよ―!!」
「あ、やっぱりそうですよね…」
ほぼ予想通りの返事に肩を落としながら、フィリアは気を取り直して銃剣を構えた。
「(ちょうどいい、わたしには見ておきたいことがある…!!)」
「おらー!!行くぞー!!!」
メイは高らかに叫ぶと《オルグプラン》に素早く詰め寄り、《レイジングワルツ》を叩き込んだ。
「やっぱりすごい…って、感心してる場合じゃない!!」
フィリアは慌てて我に返り、銃剣で《オルグプラン》に狙いを定める。
「行きます、エイミングショット!!」
フィリアは《エイミングショット》が発射された瞬間走り出した。そして空中でくるくると舞うように斬り掛かるメイに夢中の《オルグプラン》の死角へ回り込んでいく。
「これでどうです!!エインラケーテン!!」
続けて放たれた《エインラケーテン》は、《オルグプラン》の腹を切り裂き、さらに至近距離から同様に腹部を撃ち抜いた。
「ひっくり返った……今です!!」
「よしゃー!!行くよフィリアー!!」
「はい!!」
痛みに悶えてひっくり返った《オルグプラン》に2人の少女が飛び掛かる。
「おらぁー!!死ね~っ!!」
「わたしも…いきます!!」
フィリアが《クライゼンシュラーク》で決死の連撃を放ち、その横でメイもまた《ワイルドラプソディ》、そして《オウルケストラー》が炸裂し、《オルグプラン》は力無くその場に伏していった。
それから数十分後、2人の少女の姿はキャンプシップの中にあった。
「ははは!フィリア、あんたやるじゃないか~!!」
「あ、ありがとうございます!!わたしもあんなに上手く行くとは思わなくて…!!」
快活に笑うメイに賞賛され、フィリアはほんのりと顔を赤くした。
「あ、あの…お願いがあるんですけど…!!」
「ん、どうしたんだーい!!」
メイは笑顔のままフィリアに問い返す。
「ええっと…その…」
「んー??」
「あの、メイさんが使ってるツインダガーって、私にも使えないかなって…思ったんですけど……!!」
「あーこれかい?」
メイは腰のツインダガーをぽんぽんと叩いた。
「こんなの簡単さー!!すぐにできるようになるよ―!!」
「ほ、本当ですか!?」
フィリアの表情が、みるみるうちに輝きを増していく。
「ああ!!でもあたしは予備持ってないから得物は自分で用意してもらわないとねー!!」
「は、はい!!お金はお仕事で貯めたものがあるので…!!」
「いいね~!!じゃあ早速次の任務行ってみよ―!!」
「はい!!!!」
メイにつられたせいか、フィリアも思わず大きな声を出した。我に返ったフィリアが途端に顔を赤らめると、メイはそれを見てまたけらけらと笑っている。そして、キャンプシップはそんな2人を乗せ、次の任務地へと大宇宙を駆け抜けていった…。