反発

惑星リリーパの砂漠エリア、その下に眠る広大な地下坑道。この日、その地下坑道の一角を歩く3人のアークスが居た。

「…父上、念の為確認しておきたいのですが。」
「皆まで言うな、今回はあの男…ルーサーは関係しておらん。」
「ルーサーって、あのダークファルスのルーサーですか?しかし、彼はもう死んだはずでは…?」

えくれあとエルディアは密かに確認を取っていたが、それを聞き取ったフィリアがすかさず2人に聞き返す。

「あ、ええとですね……」
「…別に構わんだろう。ルーサーは…まだ生きている。どういう理屈かは知らんがな。」
「そう、なんですか…でもまぁ、わたし達には関係ないですよね!!」

フィリアが明るく声を発するが、今やルーサーと浅からぬ因縁で結びついてしまったえくれあ達は口をつぐんでしまう。そんな時、彼女達の前に3体の機甲種が姿を現した。

「チッ、面倒な連中が現れたな…。」
「ギルナスにギルナッチ2体ですか…。」
「まずは定石通りギルナッチからですね!行きます!!」

《ギルナス》と2体の《ギルナッチ》に顔をしかめるエルディアとえくれあ。フィリアはやる気満々と言わんばかりに《ノクスシュディクス》を構えた。

「……。」
「だから、何ですか?この前からわたしに文句でもあるんですか!?」
「…文句はありませんよ。さぁ、援護しますね。」

えくれあは素早く右手をかざして《シフタ》を放つ。それを確認したエルディアが颯爽と機甲種の前に躍り出た。

「…一閃、グレンテッセン。」

エルディアの《Liberte》が、機甲種の硬いパーツを斬り裂いた。大きく仰け反る2体の《ギルナッチ》に、えくれあの放つ《ディスパースシュライク》が猛追する。

「まだまだ…!!」
「…随分と力を付けたな、えくれあよ。」

えくれあは《ギルナッチ》を斬り倒した勢いで後方の《ギルナス》の元へ詰め寄り、《ヘブンリーカイト》で一気に斬り上げた。

「これでどうです……!!」

えくれあの連撃を受けたギルナスはたちどころに吹き飛び、四方にパーツを飛び散らせる。ところが、その四散したパーツ一つ一つがまるで意思を持つかのように動き出し、再びえくれあへと襲い掛かる。

「ちっ、やはり面倒ですね……。」
「…ここです、エイミングショット!!」

えくれあが身構えて《ギルナス・アーム》の攻撃を受け止めようとしたその時、フィリアが《エイミングショット》を放った。正確無比な一射は小さな《ギルナス・コア》に命中し、次の瞬間、えくれあを襲った腕を含む全てのパーツが機能を停止した。

「ほう、中々見事なものだ。」
「あ、ありがとうございます!!エルディアさんに褒めてもらえるなんて!!」

雲の上の存在にも思えたエルディアから腕を褒められ、上機嫌のフィリア。そこへ武器を収めたえくれあがつかつかと歩み寄ってきた。

「…フィリアさん。この任務の間、銃モードの使用を制限させていただきます。」
「え…?ちょっとえくれあさん、いくらわたしがエルディアさんに褒められたからってそんな嫉妬地味た真似…!!」

突然の宣告に動揺と怒りを含んだ形相で反論するフィリアを、えくれあは制して続ける。

「いえ、嫉妬どころかあなたの腕は父上以上に評価させて頂いているつもりですよ。新人とは思えない正確な射撃には私も一度ならず救われましたし、本格的な射撃クラスとしても通用するレベルではないかと思っています。」
「だったら…!!」
「しかし、それはあくまで射撃に限った話。あなたはファイターのクラスとして卒業資格を得てここに立っているはずです。更に言えば、あなたの持つガンスラッシュは銃と剣の二形態を駆使してこそ真価が発揮されるもの…先日の凍土の時に確信を得ましたが、フィリアさん。あなた、もしかして近接戦闘には苦手意識があるのではないですか?」
「っ……!!」

えくれあの言葉に絶句するフィリア。先程までの強気が嘘のように沈黙しているのは、えくれあの言葉が図星だからだろうか。

「だ、だからって、あなたに指図される謂われは…!!」
「ありますよ。私はあなたも所属する『Re:Busters』のマスターです…私達がフォローできるこのような時にこそ、弱点を克服する努力をすべきだと判断させてもらいました。これはチームマスターとしての判断でもあります…聞き入れていただけますね?」

えくれあの冷静な一言一言に、フィリアは徐々に意気消沈していく。

「……わかりました。」
「ご理解ありがとうございます。その代わり、私が責任を持ってあなたをフォローしますから。」
「(…立派に育ったものだ。人との関わりが苦手だったえくれあが、しっかりと人を見極め、仲間を束ねているのだな…。)」

落胆するフィリアを静かに見つめるえくれあを、エルディアもまた並々ならぬ想いで見つめていた。やがて、えくれあが再び口を開いた。

「さぁ、ここで時間を無駄にする必要もないでしょう…報告のあった暴走機甲種の座標はもう少し先です。」
「そうだな、急いで進むとしよう。」
「……はい…。」

こうして、一行は地下坑道を奥へと進んでいったのだった。



数十分後、えくれあ達は坑道の奥の広場らしき場所に辿り着いた。一行は足を止め、徘徊しているはずの暴走機甲種の痕跡を探して哨戒する。

「ふむ…この辺りで間違いないはずだが。」
「はい、電子データでもこの周辺座標だと表示されていますし…!?」
「見てください!!上です!!」

端末を見ていたえくれあが、突然画面が暗くなったことに気付き顔を上げる。フィリアも天井に張り付いていた「ソレ」を発見して大声を上げた。エルディアが咄嗟に少女2人を脇に抱えてその場を離れると、次の瞬間には落下してきた「ソレ」が、数秒前えくれあ達が立っていた地面を抉り取っていた。

「ほう…暴走した機甲種の正体はこいつか…。」
「トラン、マイザー…。」
「まさか天井で待ち伏せしているなんて…!!」

何とか体勢を立て直したえくれあ達も武器を構えて対峙する。一方の《トランマイザー》はえくれあ達を見つけた途端に2本のアームを振り回して突っ込んできた。

「はっ……フィリアさん…!!」
「い、行きます、トライインパクト!!」

振り下ろされたアームを、えくれあが愛剣《ブランノワール》で受け止める。その脇から、フィリアが剣形態の《ノクスシュディクス》を突き出して《トライインパクト》を放った。

「ぐっ…あああああ!!」

しかし、フィリアの3連撃は強固な《トランマイザー》の装甲には芳しい成果を得られず、えくれあは力一杯に《トランマイザー》を押し返した。しかし小柄なえくれあの両腕では充分な間合いを得るほど弾き返すことはできず、すぐさま反撃を許してしまう。

「はっ!!ぐっ!!」
「フィリアさん、恐れて後ろ体重になってはだめです!!」
「くっ…エインラケーテン!!」

フィリアはアームの重鈍な攻撃の隙を何とか突いて《エインラケーテン》を放つ。斬り上げからの射撃によって体勢が少し崩れた《トランマイザー》は、ここでようやくフィリア達から少し距離を取る形となった。

「くっ…。」
「フィリアさん、大丈夫ですか!!」
「はい、何とか…!!」
「よし、私が隙を生み出してみよう…。」

苦戦するフィリア達を見たエルディアが最前線へ躍り出る。《トランマイザー》は高速で突進しエルディアに襲い掛かるが、エルディアはそれを《Liberte》の刀身で受け流し、返しの刃で装甲を切り裂いた。想定外の反撃でエラーを起こしたのか、《トランマイザー》の背面部にある動力コアを守る装甲が大きく開かれた。

「えくれあ、フィリア!!」
「はい…!!」
「行きます、アディションバレット!!」

エルディアが突進を受け止めた隙に素早く背後を取ったフィリアが《アディションバレット》を繰り出す。蹴撃が決まって《トランマイザー》が前のめりになった瞬間、えくれあが《ディストラクトウィング》で《トランマイザー》正面に肉薄する。

「ふん、最後は任せたぞ…。」
「……銃形態は控えるよう話したはずですが。」
「そんなの、知らない…!!」
「…手のかかる子ですね。」

えくれあの《ブランノワール》、そしてフィリアの《ノクスシュディクス》が同時に閃いた。刹那、《ケストレルランページ》が《トランマイザー》の前面装甲を、《アディションバレット》の散弾が動力コアを打ち砕く。数度の小さな爆発の後《トランマイザー》は機能を完全停止し、物音一つ発しないスクラップと化して地下坑道の冷たい床に鎮座するのだった。



その後、アークスシップ『フェオ』に戻ったえくれあ達だったが、任務の完了報告も待たずにフィリアがすたすたと歩き出した。

「おい、どこへ行くのだ。」
「わたし、今日は少し疲れたので帰ります。」
「フィリアさん…!!」
「別に、任務の報告だって全員で行く必要無いですよね?……それと。」

フィリアはくるりと振り向き、眉間にしわを寄せてえくれあに告げた。

「わたし、もっと強くなりますから。あなたの…お兄ちゃんの足を引っ張るような人の指図なんか……聞かない。」

そして、えくれあの答えも待たずに踵を返し、フィリアはすたすたと人混みの中に走り去ってしまった。

「…随分と嫌われているようだな。」
「どうやら、フェデルタさんが私を慕っていると勘違いをしているようなのです。何でも、フィリアさんのお兄さんとフェデルタさんがよく似ているのだとか。」
「何…?彼女の兄とフェデルタが、か…?」
「…どうかしたのですか、父上?」

えくれあは何気ない返答のつもりだったが、それに引っかかりを覚えたエルディアが口元に手を当てて考え込み始めた。気になって問いかけるえくれあだったが、その時にはエルディアは普段の仏頂面へと戻っていた。

「…いや、そういう事もあるのだろう。そうか、そういえば兄を探しているのだと言っていたな。」
「はい…素晴らしい才能の持ち主ですし、何とか育ててあげたいのですが…。」
「…っくっくっく。まさかお前の口から、人を育てる、などという言葉が飛び出すとはな。人の成長とはままならんものだな、えくれあよ?」
「っ…!!笑わないでください父上…!!」
「ふっ、悪かったな。さぁ、部屋に戻ろう。エーテルも首を長くして待っているだろう。」
「待っているのは私達というより夕食でしょうけどね…父上、夕食の買い物に付き合ってくださいますか。」
「うむ、いいだろう。」

こうして、えくれあとエルディアもロビーの人混みの中に消えていく。しかし、父親と談笑し少女らしい一面も見せたえくれあの頭の片隅には、フィリアの影が揺れて浮かんでは消えていた。いつか分かり合いたい…そんな秘めた想いを胸に秘めた彼女だったが、ひとまずはフィリアの事を忘れ去る。そして、腹を空かせて待つ姉が満足する献立を組み上げるべく、思考力をフル回転させていくのだった。