パープル・オブリージュ

惑星ナベリウスの奥地に存在する謎の遺跡。その周辺エリアに降り立った1人のアークスの少女が居た。

「全く...何が『食べ過ぎでお腹壊しちゃった〜ごめんねえくれあちゃん〜...』ですか。体調管理も自分でできないとはもはやアークス以前の問題でしょうに……。」

誰ともなしに愚痴をこぼしながら歩く少女-えくれあは、この日遺跡エリアで発生が確認された大型のダーカー反応の調査及び討伐の任務の為、ナベリウスへと訪れていた。

「大体、カレーに唐揚げにハンバーグって……どういう味覚しているのですか...おかげで1人でこんな面倒な仕事を...ぶつぶつ」

不機嫌さを隠さずにえくれあが歩いていると、突如として目の前に2体のダーカーが出現した。

「...まぁ、姉さんが居たところで楽になるわけでもなし...仕方ありませんね、行きます...!!」

諦めたように深呼吸を1つ。そして次の瞬間、えくれあの両手に握られた飛翔剣《ブランノワール》が閃き、《サイクロネーダ》の腹部のコアが砕け散る。

「舞え、ヘブンリーカイト……!!」

突進技の《ディストラクトウィング》でコアを捉えたえくれあは、そのまま《ヘブンリーカイト》で斬り上げながら大きく舞い上がる。えくれあの9連撃を全てその身に受けた《サイクロネーダ》は、黒いフォトンの残滓を残して消滅した。相方を仕留められて怒り狂った《キュクロナーダ》は、剣の様な見た目の鈍器を振りかざしてえくれあに叩き付けてくる。

「この程度……っ!?」

フォトンの刃を放ちながら滑空し、《キュクロナーダ》の打撃を躱したかに見えたえくれあ。しかし、突如自身に迸る激痛に思わず彼女は表情を歪める。苦痛と驚愕が入り混じった表情であたりを見渡すと、えくれあはとある異変に気付いた。

「(そうか、あの像が…!!)」

えくれあは自分の近くにあった《グリムモノリス》に侵食核が発生し、それが自分の足元に黒いフォトンのトゲを発生させていることに気付く。咄嗟に《ディストラクトウィング》で《グリムモノリス》を破壊しようと接近していくえくれあ。しかし、そこへ《キュクロナーダ》も殺到し、えくれあの脳天を打ち砕かんと再び鈍器を振り上げた。

「纏めて散れ、ディスパースシュライク…!!」

えくれあの渾身の《ディスパースシュライク》が、舞い散る。周囲に散開したフォトンの刃は、《グリムモノリス》を、そして《キュクロナーダ》をも纏めて切り刻み、侵食核とダーカーを消し去ると同時に消失していった。

「ふっ…この程度では、何の障害にもなりませんね…。」

つぶやきと同時に、白と黒の飛翔剣が鞘に収まる音が響く。《グリムモノリス》によって受けたダメージを癒やすべく、傷薬を服用したえくれあは、再び無表情を取り戻して更に奥へと進んでいった。



それからしばらく歩き続けたえくれあは、やがて遠くから戦闘が発生している気配を察知し、再び武器を構えた。

「…?誰か他のアークスが交戦しているのでしょうか…。」

えくれあは恐る恐る戦闘の気配がした方へ近付いていくが、辿り着いた時にはダーカーの姿もアークスの姿も見られなかった。えくれあが首をかしげて考え込んでいたその時、背後から1つの人影が襲い掛かってきた。

「っ!?」

えくれあは奇襲される直前に迫り来る気配に気づき、バックステップで人影から距離を取る。その直後、えくれあが立っていた場所には強大なフォトンを纏った大剣《アルマゲスト》が叩き込まれ、地面は大きく抉られていた。

「あなたは…!!」
「これは…えくれあさんでしたか。お久しぶりですね。」
「こちらこそ…お久しぶりです、ネフェロさん。」

紫の《ベルトパンク》に身を包んだネフェロと呼ばれたその少女は、自分が襲いかかった相手がえくれあと分かると冷淡な表情のままに武器を収めた。

「気配が無かったものでダーカーの手先かと思いました。少しは成長しているようですね、えくれあさん。」
「いえ、まだまだ未熟ですが…それより、ネフェロさんはどうしてここへ?」
「私達は、ここで確認された巨大なダーカー反応を殲滅するために来たんですよ。」
「私『達』…?」

ネフェロの言葉に疑問を感じたえくれあが再び首を傾げたその瞬間、背後からさらにもう1人の影が飛びかかってきた。

「わーい!!えくれあがいるの!!!おひさしぶり、なの!!」
「あ、Ailakさんですか…!?ちょ、しがみつかないでください…!!」

抱き付いてくる紫色の少女Ailakを何とか引き剥がし、ゼエゼエと肩で息をするえくれあ。Ailakは引き剥がされてなおニコニコした表情ではしゃいでいる。

「Ailakさんとは偶然ここで会ったんですよ。目的が同じだったので同行している、という訳です。」
「そうでしたか…なら、私もご一緒してもよろしいでしょうか?」
「えくれあもいっしょなの!!3にんでがんばるのっ!!」

そうして3人が同行を決めて再び歩き出そうとしたその時、周囲に再びダーカーが発生してえくれあ達を取り囲む。

「ダーカッシュの群れですか、物の数ではありませんね…。」
「…えくれあさん、下がった方がいいですよ。」
「え…?」
「むらさき…ダーカー…やっつけるの!!!!!」

Ailakは《ダーカッシュ》の群れを視界に入れるや否や《グランウェイブ》で単身特攻し、《モーメントゲイル》でやたらめったらに蹴りつけていく。途中、数度《ダーカッシュ》の体当たりを受けていたが、Ailakは気にも留めていない様子だ。

「あぁ…そういえば、Ailakさんって紫のエネミーにはこうなるんでしたっけ…。」
「私も、この短時間で苦労したものです。」
「それええええええええええええ!!!!!」

紫色のダーカー達が哀れにも次々と粉々にされていくのを無言で眺めるネフェロとえくれあ。しばらくすると、Ailakは何事も無かったかのように上機嫌で2人の元に戻ってきた。

「ふぅ、たのしかったの!!」
「そう、ですか…それは良かったです…。」
「…先へ急ぎますよ。」

かくして、3人は遺跡エリアの最奥部へと再び歩を進めていったのだった。



1時間ほどさらに進み、無事に最奥部まで到達した一行は、そこで任務の目的である強大なダーカー反応の正体を捉えた。

「なるほど…これが、今回の任務の標的のようですね…。」
「ゼッシュレイダ…所詮はゴミです。」
「あいつもやっつけるの!おしごとがんばるの!!」

大型ダーカー《ゼッシュレイダ》は、えくれあ達の来訪に気付きフォトンを増幅させる。それに対抗するようにアークスの少女達も武器を抜いて身構える。次の瞬間、少女達は一斉に駆け出した。

「おまえなんか、こうなの!」
「一気に行きます…!」
「宇宙の屑が…ッ!!」

Ailakの《グランウェイブ》が《ゼッシュレイダ》の右脚を蹴りつける。さらにそこをえくれあの《ディスパースシュライク》が右脚を切り刻む。2人を踏み付けようとしていた《ゼッシュレイダ》は右脚へ集中攻撃を受けて怯み、左脚のみでふらふらと片脚でバランスをかろうじて保っている。そこへ追い打ちを掛けるようにネフェロの放った《ギルティブレイク》の2連撃が直撃し、巨大な亀型ダーカーはたまらずひっくり返ってしまう。

「今がチャンスです…!!」
「ええええええいっ!!!」
「…死んでください。」

露わになった《ゼッシュレイダ》の腹部のコアに、3人の猛攻が襲う。《ストライクガスト》、《ヘブンリーカイト》、《ツイスタフォール零式》、それぞれのフォトンアーツが続々とコアを削っていく。しかし、辛うじて致命傷を逃れた《ゼッシュレイダ》は何とか体制を立て直し、自身を高速回転させてえくれあ達を吹き飛ばそうとする。

「きゃあっ!!」
「くっ…。」
「一旦距離を取りましょう。」

ネフェロの指示で《ゼッシュレイダ》のエネルギー弾と回転攻撃の射程から逃れるえくれあとAilak。体勢を立て直した3人へ、《ゼッシュレイダ》は再びその生命を刈り取るためにエネルギー弾を撒き散らしながら襲ってくる。

「なかなか、てごわいの…!」
「確かに、少しは楽しめましたが。」
「ええ、次で最後です……!!」

強大な敵を前に不敵な笑みを浮かべる3人の少女。そして、彼女達の持つ武器が強いフォトンの輝きに包まれていく。《ゼッシュレイダ》がまさに目前まで迫ったその時、3つのフォトンが、閃いた。

「宇宙の塵が…オーバーエンド…ッ!」
「ふっとべ、ヴィントジーカー!!」
「斬り刻め、ケストレルランページ…!!」

ネフェロ、Ailak、そしてえくれあ。それぞれが最も得意とする必殺のフォトンアーツが、《ゼッシュレイダ》の硬い外殻さえも圧倒し、打ち砕いていく。やがて、フォトンアーツを撃ち切って3人が武器を収めたその時、《ゼッシュレイダ》は回転を止めて横たわり、その本体は外殻毎粉々に打ち砕かれていた。



《ゼッシュレイダ》を撃破し任務を完遂したえくれあ達は、同じキャンプシップに乗ってアークスシップ『フェオ』へと帰投することになった。

「相変わらず、ネフェロさんはお強いですね。」
「あの程度の屑であれば、当然です。」
「わたし、ひさびさにみんなとおしごとができてたのしかったのっ!!
「ええ、私もですよAilakさん。お二人に会えて良かったです。」
「…そうですね。」

キャンプシップの中でひとときの談笑を楽しむ3人。しかしその時間は決して長くは続かず、やがて3人を載せたキャンプシップは無事に『フェオ』に着陸する。シップ内のロビーに降り立つと、Ailakが名残惜しそうにえくれあとネフェロを見つめた。

「また、こんどいっしょにおしごとがしたいの…!!」
「はい、お二人が良ければ是非…!」
「…考えておきましょう。」

前向きな回答のえくれあとは対照的に、素っ気ない返事のネフェロ。しかしこの時、冷淡な彼女の表情がほんのりと和らいでいたのだが、2人はそれに気付かない。

「…では、私はこれで失礼します。今日は姉さんに夕食を作らないとならないので…。」
「わたしもそろそろかえらないと、ニーウとごはんをたべにいくやくそくなの!!」
「私も兄さんに夕食に誘われています、行くかどうかはまだ決め兼ねていますが。」
「ふふ…では、これで解散としましょう。」
「うん、さよならなの…!!」
「はい。いずれまた。」

そうして3人はそれぞれ別の方角へと静かに歩き出す。しかし、背を向けて歩き出した彼女達の表情は晴れやかだった。久々の再会と別れ、そしていつかまた共に過ごせる時間を確信して。3人の少女はそれぞれの居場所へと帰っていったのだった。