「えくれあちゃんっ、急ごうっ!!」
「…姉さん、少し落ち着いてください。」
「だってっ!!」
「いいから!!……大体、この砂嵐の中無闇に歩いたところで何が見つかると言うのですか…。」
「それは……っ!!」
砂嵐舞うここは、惑星リリーパの砂漠エリア。そのど真ん中で口論を繰り広げているのは、えくれあとエーテル、2人の姉妹だった。
「………ごめん、えくれあちゃん……」
「…いえ、私も柄にも無く言葉を荒げてしまい、すみません…」
我に返ったようにその場に立ち止まって顔を伏せるエーテル。えくれあもエーテルの服の袖を掴んで項垂れている。
「……メイちゃん、大丈夫かな……っ?」
「連絡が来て直ぐメディカルセンターに連絡したので、恐らく救護班に保護されたはずですが……」
えくれあは呟きながら自分の端末を取り出した。
「驚きました、まさかメイさんがフィリアさんと遭遇して……」
「フィリアちゃんが、メイちゃんを傷付けるなんて……」
エーテルは今にも泣き出しそうな顔で、えくれあの手を握り締める。
「えくれあちゃん…これから、どうするの…っ?」
「……メイさんは、フィリアさんが砂漠の奥に逃げたと言っていました。フィリアさんも恐らく通常の精神状態ではないはずですから、砂漠から離れて身を潜めるとしたら……」
「したら……?」
「あるいは、地下坑道のどこかにいるかもしれません。」
えくれあはそう言って、姉の手を引いて歩き出した。
「急ぎましょう、追い付くなら早いほうがいい。」
「うん…でも、もし追い付いたら…」
そこまで言いかけてエーテルは口を閉ざした。
「ううん、なんでもない……」
「…必ず連れて帰る、その為に来ました。けれど…覚悟はしています。」
「………うん。」
目に涙を浮かべたエーテルの顔をできるだけ見ないように、えくれあは砂嵐の中を走り抜けていった。
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えくれあ達が1時間ほど砂漠を走り抜けた頃、砂嵐の向こうに巨大な建造物の輪郭が浮き上がり始めた。
「もうそろそろかな…っ!!」
「はい………!?ちょっと待ってください!!」
えくれあが急停止してエーテルを腕で制する。すると、砂嵐の奥から黒い人影が躍り出てきた。
「あらぁ…また面倒なのに見つかっちゃったわねぇ」
「貴様……何者です!?」
「ふふ、私は貴女達をよく知ってるわよ…ルーサーのおもちゃにしては、随分頑張っちゃってるみたいじゃない……!!」
その女の言葉に、えくれあは一つの仮説を思い浮かべた。
「まさか貴様……アプレンティス!?」
「あぷれんてぃす……ってどこかで聞いたような……?」
エーテルが首を傾げると、その女は高笑いをしながら吐き捨てた。
「ご明察よ!!私はダークファルス・アプレンティス…そっちのおバカさんは分からないみたいだけどねぇ!!」
「ダークファルスってことは……このおばさん、ルーサーの…!!」
「誰がおばさんですって……!!まぁいいわ、とにかく私はここでアンタ達を生かしておく訳にはいかないのよ…!!」
アプレンティスを名乗ったその女は、腰の双小剣を抜いてえくれあ達に突き出した。
「押し通るしかありませんね……!!」
「それで、フィリアちゃんを助け出す……っ!!」
えくれあも愛剣《ブランノワール》を手に取って身構える。エーテルも《リカウテリ》に矢を番えて引き絞った。
「あら、いい顔するじゃなぁい……!!」
砂嵐の中、戦いの火蓋が切って落とされた。
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「当たって…ペネトレイトアロウっ!!」
「あはは!!どこ見てるのかしらぁ!!」
先手を取ったのは、エーテル。狙い澄まして放った《ペネトレイトアロウ》だったが、惜しくも【若人】の俊敏な動きに躱されてしまう。そして、反撃。
「ほら、もっと頑張りなさいよぉ!!」
「くっ……」
「えくれあちゃんっ!?」
エーテルに向けて放たれた《ワイルドラプソディ》の連撃。咄嗟に間に入って庇ったえくれあだったが、その速さと強さに圧倒され、背後のエーテルごと後ろに押し込まれていた。
「くっ……ジャスティスクロウ…!!」
「遅いわねぇ!!バカにしてるのかしらぁ?」
「ちっ……イモータルターヴ…!!」
「あはは!!話しにならないわぁ!!」
「えくれあちゃん……っ?」
えくれあは必死に愛剣を振って応戦するが、【若人】の身体に傷一つ付けることができずにいた。そんなえくれあの姿に、エーテルは違和感を覚え始めた。
「(えくれあちゃん……本気じゃない……?)」
「……?姉さん、どうしましたか……!!」
「あっ、ええっと…ううん、なんでもない……っ!!」
「…?」
「(わたしが…頑張らなくちゃっ!!)」
エーテルは《リカウテリ》から短杖《ビビッド・ハート》に武器を持ち替え、【若人】に向かって一直線に走り出した。
「姉さん!?」
「それっ、ザンバース!!」
「あはは!!貴女に何ができるのかしらぁ!!」
「やあああああっ!!!!」
エーテルは《ビビッド・ハート》を振り上げ、力一杯【若人】の頭目がけて振り下ろした。
「ふふっ、少しだけ本気、見せてあげる!!!」
「きゃあっ!?」
「姉さん!!」
エーテルの決死の一撃は【若人】にあえなく躱され、逆に反撃の《ブラッディサラバンド》の直撃を受けてしまう。
「(私の……せいだ……)」
「っぐ……ったた……」
「(私がフィリアさんの事に気を取られて…事もあろうにダークファルス相手に温存をしようなんて考えたばかりに……!!)」
えくれあは意を決して剣を握る両手に力を込めた…しかし。
「あはは!!遅いわよぉ!!」
「がはっ……」
「えくれあちゃん…っ!!」
その覚悟があと少し早ければ結果は違っただろうか。えくれあは【若人】の《シンフォニックドライブ》を受けて大きく吹き飛ばされる。大岩に打ち付けられた身体は大きく跳ね上がってから地面を転がった。
「さぁて、どちらからトドメを刺そうかしら…!!」
【若人】が舌なめずりをした、その時だった。
「……一閃、グレンテッセン」
「な、何……!?」
どこからともなく飛んできた鋭い白き斬撃。エーテルとえくれあはその斬撃の主を認めると、思わず声を上げた。
「ち、父上……!?」
「なんでここに…っ!?まだけがが治ってないんじゃ……っ!?」
「…そのつもりだったがな。お前達がリリーパに向かったと聞いたものだから、慌てて追ってきたのだ。」
エルディアは腰の《Liberte》に手を掛けたまま、不敵な笑みを浮かべる。
「とはいえ、私も病み上がりだ……力を貸してくれるな。」
「…えぇ……!!」
「任せて……わたしだってがんばるもんっ!!」
「ふざけるんじゃないわよ…たかが1人、増えたくらいで……いい気になるんじゃないわ!!」
【若人】が痺れを切らして襲いかかる。それに真っ向から立ち向かうエルディア。
「…不動、カザンナデシコ」
「ちっ…馬鹿力……!!」
【若人】の放つ《レイジングワルツ》を《カザンナデシコ零式》で受け止めたエルディア。2人の刃が真っ向からぶつかり合い、拮抗した。
「今だ、お前達……」
「行きます……!!」
「がってんっ!!」
えくれあが《ディストラクトウィング》でエルディアの脇をくぐり抜け、一気に【若人】に詰め寄った。そこへエーテルの放った《グランツ》が降り注ぐ。
「えくれあちゃんっ!!」
「閃光と共に散れ……」
えくれあの《ブランノワール》にエーテルの《グランツ》が降り注ぎ、白く輝くフォトンの刃と化してその剣身に宿る。
「…ケストレル…ランページ……!!」
そして、その光の刃は躊躇われる事無く【若人】に振り下ろされた。何度も、何度も…やがてその身体が霧散するまで刃は閃き、輝くフォトンの奔流がその残滓さえ消し払った。
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「終わったか……」
「ダークファルスに、勝った……っ!?」
エルディアはほっとしたように抜剣を鞘に納め、エーテルは顔を輝かせてえくれあに駆け寄った。
「いえ…この手応えは、恐らく偽物…」
「複製体か……しかし、本体はどこへ……むっ」
「お父さんっ!?」
突如エルディアの巨体が崩れ落ち、慌ててエーテルとえくれあの2人がかりで支えた。
「父上、まだ身体が……」
「…少し、無理をしたようだ。」
「大丈夫……っ?」
「あぁ……だが、私はひとまずここまでのようだ。あの娘を助けるのは…」
エルディアが無念そうに呻く。
「…はい。私達が……必ず。」
「……任せたぞ。えくれあ、エーテル。」
「はい!!」「うんっ!!」
2人の返事を聞き届けたエルディアは、安心した様子でその場に座り込んだ。
「…応援くらいは自分で呼べるさ。何、それこそチームの仲間に救援を要請するとしよう…お前達は、先を急ぎなさい。」
こうして、えくれあ達は目の前にそびえ立つ地下坑道へと歩を進めた。その先に、フィリアが居ることを信じ、そしてその少女を必ず救い出すことを誓って……。