「…行くよ、えくれあちゃん……っ!!」
「いつでもどうぞ、姉さん……!!」
チーム『Re:Busters』のチームルームが静寂に包まれる。そして、えくれあの手が動いた。
「……3、3、4、4、4。フルハウスです……!!」
「わー!えくれあちゃんやるねー!!」
「……っくっくっく……っ!!」
「…エーテルさん?」
くろがねとすずしろが見守る中、不敵に笑うエーテルの手も動いた。
「わたしの…勝ちだよっ!!」
「10、J、Q、K、A…!?しかもスペードってこれ……!!」
「ロイヤルストレートフラッシュ、ですね。実際に見るのは私も初めてです。」
「負けた……私が……姉さんに………」
呆気に取られる2人の前でエーテルは両手を上げてはしゃぎ、えくれあはがっくりと肩を落としてうなだれていた。
「バカな…私が身長以外で姉さんに負けるなんて……!!」
「ポーカーは運もあるからねー!!」
「あっはっはっ!!姉より優れた妹などいないのだーっ!!」
「その発言には全くもって肯定しかねますが。えくれあさんもどうか元気を出してくださいね。」
そう言ってえくれあの肩をポンと叩くすずしろ。チームルームには和やかな空気が流れていた……その時までは。
「…様……お嬢様…えくれあお嬢様!!」
「…フェデルタさん?」
叫び声と共にフェデルタがチームルームに入ってきた。その表情には焦燥感が滲んでいる。
「フェーくんっ?どしたのっ?」
「はぁ、はぁ…他の皆さんは!?」
「ここにいるのは今は私達だけですね。」
「血相変えてどうしたのかなー?」
フェデルタはようやく息を落ち着かせ、えくれあ達に告げた。
「……ダークファルスが、現れました。」
「何ですって……!?」
「反応は2つです。1つはアークス船団に接近しつつあるもの。これは【巨躯】だと予測されます。そしてもう1つは………」
「もう1つはっ?」
「…旧マザーシップを侵食して籠城しています。こちらは恐らく、いやほぼ間違いなく……」
「【敗者】……あいつが……!!」
フェデルタの発言に、室内に戦慄が走る。
「…現在名のあるアークス達には【巨躯】討伐の為、出撃命令が出ています。ところが、【敗者】に関しては上層部でも緘口令が出ています。」
「何故そのような事に?」
すずしろが眉をひそめる。フェデルタは言葉を選びながら答えていく。
「…どうやら、旧マザーシップの状況が非常に良くないということと、先日のルーサー襲撃から立て続けに侵攻されていることが『上』でも問題になっているようなのです。」
「そんな…面子など気にしている場合では…!!」
「全くその通りですよ、えくれあお嬢様。」
憤りを隠せないえくれあに、フェデルタも同意してみせる。
「旦那様の協力もあり、目標座標は掴んでいます。旦那様からは、対【巨躯】の為に『Re:Busters』の動員と、えくれあお嬢様とエーテルお嬢様に対【敗者】への出撃を仰せつかっています。」
「えぇっ、わたし達だけでルーサーと戦うのっ!?」
「旧マザーシップはかなり侵食が進んでおり、実は上層部でも突破し得る充分な戦力を確保できていないようなのです。ですが、旦那様の技術で何とか少人数に限り指定座標に繋ぐテレポーターの作動に成功しました。【敗者】に対してはリスクはありますが少数精鋭で、というのが旦那様の意図のようです。」
「……分かりました。えくれあさん達は出撃準備に専念してください。」
「すずしろさん…」
「チームの皆さんには私が連絡をしておきます。どうかお気を付けて。」
「すずしろちゃんありがとうっ!!」
「じゃあ私はエオリアちゃんに連絡してくるねー!!」
そうしてすずしろとくろがねは端末を操作し、チームメンバー達に連絡を取り始める。
「…フィリアさんにも連絡しましょう。」
「えくれあちゃんっ!?」
「…僕も賛成です。まだ経験が浅いとはいえ、彼女は重要な戦力足り得ます。」
えくれあもすぐに端末を取り出し、メールを打ち始める。そして、チームメンバーの集合を待つすずしろとくろがねに見送られ、一足先にチームルームを飛び出していった。
「…以上が現在の状況になります。」
「えええ、防衛戦の次はダークファルスと戦うの!?」
「ねぇディーナちゃん、ファークファルスってなぁに?」
「…アンタはもう黙ってて……」
1時間後、キャンプシップの中で『Re:Busters』のメンバーにフェデルタから聞いた情報を説明するすずしろ。それを聞いたリアンとフォンの横で、ディーナが煩わしそうに頭を抱えている。
「やれやれ、随分と厄介な事になったな。」
「そうですね、私なんかがお役に立てるでしょうか…?」
シャルラッハとシルファナもシップの端で険しい表情を浮かべていた。
「そういや、えくれあが居ないのにみんなで集まって仕事するのって初めてだな…大丈夫なのか?」
「ふっふっふ…心配には及ばないよショウちゃん。何故ならここには私とすずしろちゃんがいる……つまり我らがりばすたは最強……!!」
「何訳わかんない事言ってるのよ…でも、今はお姉ちゃんの明るさがちょっとだけ頼もしいわね。」
エオリアの発言にアルとショウにほんのりと安堵の表情が浮かぶ。その空気がシップ全体に伝染し、一行は少しだけ落ち着きを取り戻した。
「エルディアさ~ん?【巨躯】まではどれくらいの距離なの~?」
「…恐らくそうかからないはずだ。それにしても……」
くろがねの質問に操縦席から無線で答えるのはエルディアだ。
「まさかえくれあが君達からそこまでの信頼を得ているとは驚いた……不出来な娘達だが、エーテル共々今後もよろしく頼むぞ。」
「今後があるかどうかは私達の戦いぶりに掛かっていますが…皆さん、準備はよろしいですか?」
感慨深げなエルディアの言葉を跳ね除けるようにメンバーに問いかけるすずしろ。
「すずちゃ~ん!!えくれあちゃん居ないからって気負い過ぎちゃダメだよ~?」
「分かってる…だからくろ姉、そんなにくっつかないで。」
抱き着くくろがねをすずしろが引き剥がそうとした時、切迫したエルディアの声が無線越しに響く。
「全員戦闘準備に入れ!!……【巨躯】が現れた、行くぞ……!!」
「いよいよ…か。」
「よーし!ぽ…じゃなくて!!フォンにおまかせあれー!!」
「な、なんでそんなに元気なの……?」
「…気にしないで。少し頭がアレなだけだから。」
「と、とにかく参りましょう…」
既に武器を抜いて目を細めるシャルラッハ。フォンが右の拳を高く上げると、リアンが驚いたように身体を強張らせる。ディーナは気怠げな表情のまま、シルファナは不安を隠せない様子でシップの外へと歩いていく。こうして、死闘が幕を開けた。
シップの屋上に出た『Re:Busters』を、既に《ダークファルス・エルダー》が待ち構えていた。
「な、何よこいつ……!?」
「で、でけぇ……!!」
アルとショウが目をエルディア見開いて絶句する。
「……40年ぶりだな、エルダーよ…!!」
エルディアは抜剣《Liberte》に手を当て、【巨躯】を睨みつける。
「…ハッハッハッハッハ!!!!」
「行くぞ、エルダー…!!」
エルディアの《グレンテッセン》が戦いの火蓋を切って落とす。真っ直ぐに迫り来るエルディアに対して、《ダークファルス・エルダー》の対応は至ってシンプルだった。
「良きたぎる闘争よ…!!」
振り下ろされたのは、巨大な腕。ただ真っ直ぐに叩き付けられたその腕だったが、余りに速く、強いその一撃。
「ぐはっ……」
「エルディア殿!!」
エルディアは真っ向から腕に叩き潰され、地面に伏せる。シャルラッハが咄嗟に飛翔剣を抜き出してエルディアに駆け寄った。
「ぐっ…これが、ダークファルスの力だというのか……」
「くっ……!!」
更に追撃を仕掛けようとする【巨躯】の腕に、シャルラッハが《イモータルターヴ》を放つ。
「すまない、助かった。」
「礼には及ばない。が、しかし……。」
苦虫を噛み潰したような表情でシャルラッハが呻く。
「…流石に強大過ぎて勝ち筋が見えませんね。」
「すずちゃんにしては弱気だね~?」
「…冷静に状況を分析してるだけ。」
くろがねのツッコミに若干の苛立ちを滲ませて返すすずしろ。
「ですが、すずしろさんがそう判断するほどに状況は厳しい、ということですね……どうしましょう……。」
「僕、怖いや…なんでこんなところにいるんだろう……」
険しい表情を浮かべるシルファナと、隣で半泣き状態のリアン。一行には既に敗戦一色の空気が流れていた。しかし、それを打ち砕く一声が響く。
「ダークファルスだか何だか知らないけど、なんとかなるっしょ!!」
「ちょ、ちょっとお姉ちゃん!?何無責任なこと言ってんのよ!?」
「無責任でも何でも、勝てると思わなきゃ勝てるもんも勝てないじゃんよ!!」
「あぁ…?よく分かんねえけど姉ちゃんがそう言うならそうなんだな!!オレも盛り上がっていくぜ!!」
エオリアの声にアルは文句を言うが、ショウは納得したらしくおたけびを上げてエルディアを襲った腕へと向かっていった。
「食らえ、ジャスティスクロウ!!」
「ショウちゃんやるねぇ!!それっ、サテライトエイム!!」
「あぁもう…!!それ、ギルティブレイク!!」
エオリアとアルも、ショウの後に続いて【巨躯】の腕を攻め立てる。その姿を見た面々も、徐々に闘志を燃やし始めた。
「……暑苦しいけど、嫌いじゃない。行くよ、フォン。」
「だからポンじゃなくてフォ…あれっ?フォンですー!!」
ディーナの放った《シフタ》を受けて、フォンが《グランウェイブ》で突っ込んでいく。フォンの連続蹴りを受けて、集中攻撃を受けた腕の1本にヒビが入った。
「ヒビ入りましたけどー!!」
「じゃあおいしいところは貰ってくね~」
くろがねがすかさず《グリムバラージュ》で腕へと銃弾を叩き込む。するとヒビの入った腕の1本がバラバラと崩れ落ちた。
「壊れましたけどー!!」
「…こうして1本ずつ腕を壊していくしかありませんね。」
「いいぞいいぞ……!!」
腕の破壊を確認し、次の狙いを定めるすずしろに新たな腕が迫る。
「っ……」
すずしろは刀身に精神を集中させ、迫り来る腕を一閃していなしていく。
「…見事な、若者達だ。初めて見た時は不安もあったが……」
「エルディア殿……。」
『Re:Busters』の姿を見て、エルディアも立ち上がる。意を決したように腰の《liverte》に手を掛けた。
「このエルディア・エルドラド、甘く見てもらっては困る……!!」
エルディアの《liberte》が閃く。放たれた《サクラエンド零式》は強かに腕の1本を捉え、たったの二振りでヒビを入れてみせた。
「うおおお!!オッサンすげえええええ!!!」
「おじさんいいじゃん!!まだまだ現役じゃん!!」
「…2人共ちょっと失礼じゃない?」
エルディアの剣筋に歓声を上げるショウとエオリアに怪訝な顔をするアル。
「み、みんな凄いな……」
「…お前もやるんだ、リアン。」
「ええぇ!?」
悲鳴を上げるリアンを、シャルラッハは厳しく睨み付けた。
「当然だ、何をしにここまで来た……おい、来るぞ。」
「うわあああああ!?」
「ハッハッハ!!」
【巨躯】は高らかに笑いながらリアン達に向けてパンチを繰り出した。間一髪で避けたリアンがふらふらと立ち上がった時には、既にシャルラッハは反撃に転じていた。
「(エルディア殿の入れたヒビ……)狙う価値はあるか。」
シャルラッハは再び《イモータルターヴ》で腕に入ったヒビを狙った。見事に命中しヒビは広がったが、辛うじて腕は原型を保っていた。
「やあああああああ!!!」
そこへリアンががむしゃらに放った《ラストネメシス》が命中し、2本目の腕を破壊した。
「……くろ姉。」
「は~いすずちゃ~ん!!」
背中合わせのすずしろとくろがねが、それぞれ自分の正面の腕へと向かっていく。
「…シュンカシュンラン。」
「メシアタ~イム!!」
すずしろの容赦ない連撃が、くろがねの支配した空間を舞う無数の銃弾が、止め処なく2本の腕に襲いかかる。そしてあっけなくヒビの入った2本には、更なる追撃が降り注いだ。
「私達の事も……」
「忘れないでほしいんですけどー!!」
すずしろが切り裂いた腕にフォンの《モーメントゲイル》が、くろがねが狙い撃った腕にはディーナの《ラ・グランツ》が直撃し、遂に4本の腕を壊すことに成功した。
「私達…やればできるじゃない!!」
「復活して間もないから本調子じゃないのかな~?」
アルとくろがねがハイタッチを決めて【巨躯】へ向き直る。
「くろ姉の言う通りかもしれませんね。思った以上に通用しています、これなら……。」
すずしろがそう呟いた時、【巨躯】の身体に変化が生じた。
「面白い……面白いぞ、烏合……!!」
【巨躯】はそう呟くと残った4本の手を広げた。瞬く間にその脇から破壊した4本の腕が再生し、更にもう2本新たな腕を生成した。
「え゛っ!?」
「腕……増えたわね……」
悲鳴とも呻き声とも付かない声を上げるフォン。ディーナも無表情ながら一段と暗いトーンで声を発した。
「嘘…だよね……?」
「まさか、こんな事って……!!」
「……。」
リアンとシルファナも落胆の色を隠せない。シャルラッハでさえ、口を閉じて開こうとせずに【巨躯】を睨み付けていた。
「おいどうすんだ姉ちゃん……!!」
「も、問題ナッシング!!あれだけ攻撃したんだからきっと弱ってるっしょ!!」
「ちょっとお姉ちゃん、いい加減に……!!」
「…いや、エオリア君の言う通りだ。」
ショウの問いにあっけらかんと答えたエオリア。アルが窘めようとした時、エルディアの発した言葉に誰もが驚愕した。
「え、マジっすか?」
「姉ちゃん、自分で驚くなよ……」
「…私は最初にエルダーの一撃を受けた時、既に心のどこかに諦めが生じていた。結局40年前と同じ…私のような者がダークファルスに太刀打ちできる術など無いのだ、とな。」
「エルディア殿……」
「だが、君達は諦めなかった。必死に立ち向かった。私があっさり諦めたあのエルダーに抗い、腕を4本も落としてみせた。君達ならばこの戦い……必ず勝利することができよう。」
エルディアはそう言うと、カタナを構えて【巨躯】に正対した。
「…でも、その言い方…」
「あれ?もしかして他人事ー?」
ディーナとフォンがエルディアに詰め寄る。しかし、エルディアは答えなかった。何故なら、彼は知っていた。
「…次の攻撃は、生半可では受けることはできん。」
「エルディアさん…あなた、まさか…!!」
「…この世界を…そして、娘達を……君達に託そう。」
「ど、どういう事……!?」
シルファナとリアンの横をすり抜け、エルディアが飛び出した。
「来い……エルダー……!!」
「応えよ深淵…万象破砕の、その力を……!!」
【巨躯】は一度エルディア達から大きく離れ、そこから巨大な隕石を放り投げてきた。
「エルディア殿……!!」
「……受け止めてみせよう、この命に代えても……!!」
隕石は真っ直ぐに飛んでくる。エルディアは刀身にありったけのフォトンを注ぎ、待ち構えた。そして、次の瞬間。
「くっ……」
「きゃああああああ!!」
隕石の着弾とともに吹き荒れる爆風で、一行は大きく吹き飛ばされる。爆風の中に交じる、誰かの叫び声。やがて爆風も収まり、一行が立ち上がると、そこには力なく倒れ伏したエルディアの姿があった。一斉にエルディアの元へ駆け出す仲間達。
「おい、息してねえぞ!?」
「……シルファナさん、ディーナさん。回復テクニックで応急処置を試みてください。」
「はい!!」
「…分かった……。」
すずしろの指示に従い、直ぐ様《レスタ》の詠唱を始めるシルファナとディーナ。
「総員、攻撃準備開始。ダークファルス…あの諸悪の根源を、叩きます。」
「すずちゃん……」
すずしろは唇を噛み締めながら、いつになく力のこもった声で告げた。
「そうだよ…早く倒して、エルディアおじさんを助けないと……!!」
「…っしゃ!!やってやろうじゃん!!」
リアンとエオリアも武器を握り締めて立ち上がる。
「エルディア殿…その覚悟、確かに受け取った…!!」
「やられたらやり返す…倍返しですけど!!」
シャルラッハと、フォンも真剣な表情で【巨躯】を睨み付ける。
「私……やってやるわ……!!」
「あぁ、オレの強さ…あのデカブツに見せ付けてやる……!!」
アルとショウも目に涙を溜めながら立ち上がった。
「そろそろ対象が接近してきます。エオリアさん、ウィークバレットは…」
「いつでもオッケー!!おりゃーっ!!!!」
「ハッハッハ、無為なる事よ…!!」
すずしろに訊かれたエオリアはGOサインも待たずに《ウィークバレット》を放つ。ゆっくり近付いてくる【巨躯】の胸部コアに、無事弱体弾が命中した。
「攻撃……開始。」
「りょ~か~い!」
真っ先に突っ込んでいったくろがねが素早く《サテライトエイム》を2連続で叩き込む。
「遅れは取らない……」
「僕だって…!!」
続けてシャルラッハの《スターリングフォール》とリアンの《ヒエンツバキ》が【巨躯】の胸部コアを襲った。
「全力ですけど!!!」
「これでも食らえ!!」
続けてフォンの《ウィントジーカー》、ショウの《ジャスティスクロウ》も叩き込まれていく。
「これで…」
「決まりっ!!どかーん!!」
すずしろの《ハトウリンドウ》とエオリアの《シフタピリオド》が炸裂した瞬間、【巨躯】の胸部コアが炸裂した。
「むっ、バカな…!?この我が、ダークファルス……エルダーがああああああああああああああああああ!?」
激しい音を立てながら、ダークファルス【巨躯】の身体は崩れ去り、やがて消失していった。
「やった……!?」
「よっしゃあ!!オレ達の勝ちだ!!」
アルは信じられないという表情で【巨躯】が居た虚空を眺め、その横でショウがガッツポーズを決めている。
「…ディーナさん、シルファナさん。エルディアさんの様子はいかがですか。」
「はぁ…はぁ…それが……」
「全然…ダメ……はぁ…呼吸が戻らない…はぁ…」
絶え間なく《レスタ》を放ち続けていた2人は、顔面蒼白で、息も絶え絶えの状態となっていた。
「すずちゃん、どうするの?」
「…急いでシップに帰還します。」
「だが、今から救援を待っていてはエルディア殿は…!!」
「私がこの船を操縦します。」
すずしろの言葉にその場に居た全員が沈黙した。
「あの~…質問なんですけど~…」
「すず姉さん…操縦、できるの?」
フォンとリアンの問いかけ、そしてその答えに誰もが耳を傾けた。
「当然、初めてです。」
「おいおい!?当然って言っちゃったよこの人!!」
「…本気なのですか?」
思わずツッコミを入れるショウ。シルファナも不安そうにすずしろを見つめている。
「本気です。そうしなければ、エルディアさんが助かる可能性は0です。えくれあさん達にも顔向けができません。迷っている時間は、ありません。」
真顔のまま答えるすずしろに、全員が顔を見合わせた。
「まぁ私はどうせ運転できないし、すずしろちゃんにお任せするよ!!」
「…そうね、他に手段も無いし、何よりマネージャーの指示はちゃんと聞かないとね。」
「決まりだね~、じゃあ私はすずちゃんのフォローに回るね~!」
こうして、すずしろの操縦でキャンプシップは動き出した。仲間達の心境が冷静なすずしろへの信頼と初操縦に対する不安で揺れ動くのをよそに、キャンプシップはぐんぐん加速してアークスシップ『フェオ』へと向かっていく。そしてその頃、旧マザーシップではもうひとつの過酷な戦いが幕を開けようとしていた………。