戸惑いの姉妹

惑星リリーパの奥地に存在する地下坑道。その入口付近に並び立つ、4人のアークスの影があった。

「お待ちしておりました、旦那様、お嬢様方。」
「フェデルタ、ご苦労だったな。して、例の物は…」
「この先に見つけて御座います。早速参りましょう。」

そう言ってすたすたと歩いていくフェデルタとエルディア。えくれあとエーテルは慌てて後を追いかけていく。

「あの、まだ状況が飲み込めていないのですが…。」
「ねぇねぇっ、この先に何があるのーっ?」
「…まぁ、いずれ分かりますよ。」
「それより気を付けろ、早速お出ましだ。」

エルディアが素早く腰の抜剣《liberte》に手を掛ける。すると前方に、《エル・アーダ》が4体姿を見せた。フェデルタも既に《M&A60ヴァイス》を両手に構えている。えくれあとエーテルも、彼らから少しだけ遅れて身構えた。

「ダーカー…ですね。」
「ふん、さっさと片付けるとしよう。」
「丁度一人一殺、と言ったところでしょうか。」
「ふえっ!?よ、よし頑張るよ…っ!!」

最初に動いたのは、フェデルタ。素早く1体に駆け寄って《サテライトエイム》を打ち込む。そのまま《エリアルシューティング》で蹴り上げ、空中で《デッドアプローチ》を叩き込んみ、瞬く間に《エル・アーダ》を屠って見せた。

「ほう…やりおるな。」

エルディアも続いて動き出す。1体が突進を仕掛けてくるのを見ると、素早く《liberte》の刀身を前に構えて防ぐ。そのまま一太刀浴びせると、《サクラエンド》を放つ。十字に切り裂かれた《エル・アーダ》は一瞬で地面に溶けていった。

「…相変わらずの凄腕ですね……!!」

えくれあも負けじと《ディストラクトウィング》で手近な1体に斬りかかる。《エル・アーダ》が飛び退って距離を取ろうとするのを見ると、そのまま《ヘブンリーカイト》で斬り上げた。

「そんなに飛びたければ飛ばせて差し上げましょう…。」

えくれあはもう一度《ヘブンリーカイト》を放ち、さらに上空まで斬り上げる。彼女の着地と同時に亡骸となった《エル・アーダ》も地面に叩き付けられた。

「えっ、ちょっ、…んもうっ!!」

一方でエーテルは空中を動き回る《エル・アーダ》に上手く狙いを絞れずに無駄撃ちを繰り返していた。

「うぅ…それならこれでっ!!」

エーテルは愛弓《リカウテリ》を下ろし、空いた右手を前方に伸ばす。

「いっけぇ、ラ・グランツっ!!」

エーテルが放った光属性の中級テクニック《ラ・グランツ》は、見事に《エル・アーダ》に命中し、その一撃で《エル・アーダ》を昇天させてみせた。

「やったぁっ!!」
「…少しは成長しているようだな。」

感心するエルディアに、エーテルは満面の笑みでピースサインを決めて飛び跳ねる。えくれあとフェデルタは苦笑い気味に顔を見合わせた。

「…さて、そろそろ先に進みましょう。もうすぐで着くはずですから。」
「(着く…?目的はどこかの『場所』という事でしょうか…?)」



その後も数度のダーカーとの遭遇戦を突破した後、フェデルタが突然足を止めた。

「着きました、ここです。」
「ここは…ただの広場のようですが……。」

えくれあが辺りを哨戒していると、フェデルタが無造作に積まれたボックスをどかし始めた。エルディアも手伝ってボックスを全てどけると、何やらスイッチのようなものが顔を覗かせた。

「これか…?」
「おそらく…間違いないかと。」
「これ、押したらどーなるのっ?」
「どうなるかなぁッ!?」
「「「「!?」」」」」

突然割り込んだ奇妙な声に、えくれあ達は慌てて振り返る。するとそこには1人の男が立っていた。紫がかった髪に黒い衣服、ここにいるはずのないその男は不気味な笑い声を上げながらえくれあ達へと歩み寄ってくる。

「ルーサー……!!」
「なぜ、貴様がここに……!?」
「アハッハッハッハッハ!!!」
「こいつ、理性が無いのですか……!?」
「ひゃっ、く、来るよ…っ!!」

男は奇妙な笑い声のまま、両手を振り上げて襲い掛かってきた。慌てて一行は臨戦態勢に入る。エーテルが牽制しようと《ペネトレイトアロウ》を放ったその時、さらに信じがたい出来事が起こった。

「ごふっ……。」
「えっ…?」
「死んだ…のか?」
「馬鹿な、姉さんの一撃でまさか…!?」

なんと男は無抵抗に《ペネトレイトアロウ》を受け、そのまま地面に倒れ伏したのだ。えくれあ達が警戒していると、別のところから同じ声が聞こえてくる。

「アヒャヒャヒャヒャ!!!!」
「2人目…だと…?」
「なんでっ!?おんなじ人が2人もっ!?」
「…これはもしや…えくれあお嬢様、あいつに攻撃してみてください。」
「…?ええ、言われなくてもそのつもりですが……。」

えくれあはフェデルタの指示に疑問を持ちながらも、《ディストラクトウィング》で新たに出現した男に突進してみる。

「うぎゃあ!!」
「…こいつ、弱い……?」

倒したえくれあが拍子抜けするほどに、男はあっさりと地面に倒れ伏していく。

「…やはりそうか。旦那様、ここはどうやら研究に失敗して廃墟となった施設のようです。」
「…では、これ以上の危険は無いか?」
「はい…尤も、有益な情報が残っているかは甚だ疑問ですが。」

フェデルタとエルディアの会話に、いよいよ我慢ができなくなったえくれあが割って入る。

「…父上、フェデルタさん。そろそろ教えてください、あなた達は何を知っているんです…?」
「……知る覚悟はできているのか?」
「だって、わたし達もうここまで来ちゃったし…どうせ後で知るなら、今知って心の準備とかしたいよねっ!」
「…確かに、エーテルお嬢様の言うことも尤もかもしれませんが…旦那様。」
「……うむ。」

エルディアは目を閉じて語り始めた。

「…単刀直入に言おう。私たちはな、ルーサーを追って調査をしているのだ。」
「ルーサーを…!?しかしなぜ父上達が…。」
「目的は2つ…復活を果たしたルーサーの抹殺と、『ある物』を取り戻す為だ。」
「『ある物』って、なぁに?」
「…それは、今は言えん。私たちにも、今それがどのような状況にあるか分からんのだ。」
「どういう意味です…?」

頭に疑問符を浮かべる姉妹に、フェデルタが答える。

「或いは、この中を調べることで答えが得られるかと思ったのですが。」

そう言いながらフェデルタが発見したスイッチを起動すると、広場に謎の建造物が浮かび上がってきた。

「これは…?」
「研究施設…だと思われます。先のルーサーの複製体も、おそらくここで作られたものでしょう。」
「作られたって…っ!?」

フェデルタは答えず、エルディアと共に中へ入っていく。えくれあとエーテルも、顔を見合わせた後、2人を追って中に入っていった。



先に入ったフェデルタ達を追ったえくれあとエーテルが2人を見つけたのは、一番奥の部屋だった。

「ここはなぁに…?」
「おそらく研究の結果等を整理していたのでしょう……。」
「一体何の研究を……おや、これは…?」

えくれあが辺りを物色していると、写真のようなものを見つけて拾い上げた。

「金髪の女性…?きれいな方ですが一体…?」
「……!?おいえくれあ!!その写真を貸しなさい!!」

えくれあの手に取った写真を見たエルディアが突然大声を上げる。えくれあは驚いて、慌ててその写真をエルディアに渡した。

「お父さん大きな声出してどうしたの………って、嘘っ!?どうして…っ!?」
「やはり、そういうことなのか…!!」
「姉さんまで…一体誰なんです、その女性は!!」

えくれあが苛立ちを隠さずに声を上げる。エルディアとエーテルは、無言で写真を見つめている。えくれあに答えたのは、フェデルタだった。

「この女性は…エリア・エルドラド。貴女のお母君ですよ、えくれあお嬢様。」
「なっ……!!」

えくれあは驚愕の表情を浮かべる。エリア・エルドラド、その名前を何度も反芻した後、彼女は再び問いかける。

「し、しかし…母上は私を産んだ時に亡くなったのでは…?その母上の写真がなぜここに……。」
「……奪われたのだ。お前を産んだ、その夜にな。」
「「ええっ!?」」

今度はエーテルも一緒になって驚きの声を上げた。

「あの日は、雪の降る夜でしたね。えくれあお嬢様を産んで間もなく亡くなった後、泣き疲れて寝てしまったエーテルお嬢様と産まれたばかりのえくれあお嬢様を家に残し、僕達はエリア奥様を埋葬しに行ったのです。」
「墓所に付いて場所を見繕っていた時だ…突然あの男、ルーサーが現れて私を背後から斬り付けたのだ。」
「ルーサーが……!?」
「当時ただの使用人だった僕にはどうする事もできず、エリア様の亡骸がルーサーの手下によって奪い去られていくのを、ただ見ている事しかできませんでした…。」
「私達は相談して、お前たちにはこの事を時が来るまで伏せることにしたのだ…幼いお前達には、むごい話だと思ったのだよ。」
「僕はその後旦那様の命で使用人の仕事にお暇を頂き、以来アークスとしての修行も積みながらルーサーについて調べていたのです。」

話を聞き終えたえくれあとエーテルは、沈痛な面持ちで立ち尽くしていた。やがて、えくれあがゆっくりと口を開いた。

「…でも、どうして母上の遺体を盗んだりしたのでしょうか…?」
「……いくつかの可能性は考えられるが、なんとも言えんな。」
「お父さん、いくつかの可能性って…?」
「…僕達もまだ確証が持てない状況なのです、エーテルお嬢様。はっきりした事が分かるまで、もう少しお時間を頂けますか…?」
「…うん、分かったよフェーくん……」

項垂れるエーテルの横でえくれあもまた俯いていた。すると突然、4人の持つ端末がけたたましい警報音を鳴らした。

「何の騒ぎだ……!!」
「これは……!?」
「どうしました、えくれあお嬢様?」
「旧マザーシップがダーカーに侵食されて……内部から巨大なダーカー反応…!?」
「何だと!?」
「旦那様、まさか…。」
「…分からん。何にせよ、急いで向かおう。ここからなら、件の旧マザーシップも近いはずだ。」
「えくれあちゃん……っ」
「…行ってみましょう。どうやら、私達に無関係の話の流れでは無いようです。何が起こっているのか、確かめないと……。」

不安に揺れるえくれあとエーテル。しかし彼女達の思惑とは裏腹に、事態は動き出す。一行は急いでアークスシップに乗り込み、侵食された旧マザーシップへと飛び立った。しかし、向かい行く先が混沌と絶望と非情な真実が渦巻く中心部とは、彼女達には知る由もありはしなかった…。