狂気なる全知

かつて使われなくなって以来、人が寄り付かなくなった旧マザーシップ。誰もいないはずのその場所に忍び込む影が、4つ。

「…何とか潜入に成功しましたね。」
「はい、ここまでは旦那様の計画通りです。」

先頭を歩いているのはえくれあとフェデルタ、その後ろをエーテルとフィリアが続く。

「静かな場所だねー……」
「当然ですよ、今は使われていない場所なんですから。それにしても…ここにルーサーがいるんですか?」

フィリアの問いに、フェデルタが答えた。

「えぇ、ほぼ間違いなく。反応はこの先から出ていたようですが……。」
「私も同感です……何だか、嫌な予感がします。」

えくれあの言葉に、その場に居た全員が息を呑む。そして、それっきり無言のまま、4人は黙々と歩き続けた。数十分ほど歩くと、一行は大きく開けた空間に辿り着いた。

「ここは……?」
「……よく来たね、待っていたよ。」
「「「「!!」」」」

えくれあの独り言に答える、何者かの声。4人は咄嗟に武器に手を添えて身構える。

「ほう……これは奇遇だ。まさか僕の実験体がここに全て揃うとはね。」
「ルーサー……」
「この人が……!?」

突如として現れたその男、ルーサーに向けてフェデルタが忌々しげに呟く横で、フィリアは警戒しながらも瞳に好奇心を潜ませている。

「…あなた、今実験体とおっしゃいましたね。どういう意味です…?」
「おや?結局、君達は父親から何も聞かされていないのかい?」
「お父さんから……?一体何のことっ!?」

邪悪な笑みを浮かべたルーサーに、エーテルも語気を強めて問いただす。

「くくく、本当に何も知らされていないんだね。可哀想に……ならば教えてあげよう…この僕が、全てをね…!!」
「ルーサー…!?よすんだ、それは……!!」

フェデルタが珍しく慌てた様子でルーサーを止めようとするが、それを遮るようにルーサーは話し続けた。



「そう、それは40年前の事…君達も知っているだろう、【巨躯】とアークス達の戦争だ。そこには君達の父親も当然参加していた…尤も、最前線からは遠く離れた場所であったがね。」

えくれあとエーテルは瞬きも忘れ、ルーサーの話に耳を傾ける。

「市街地の防衛に当たっていた君達の父親は、ダーカーの襲撃を受けて大きな怪我を負ったのだよ。当時は単なる大怪我だと思っていたようだが、実はそうではない……」

ここまで言い終えると、ルーサーは右手をパチンと鳴らした。その瞬間、えくれあとエーテルの身体に異変が生じる。

「あぐっ……!?」
「あぅ…この感じ……!?」

邪悪な笑みを強めて、ルーサーは続けた。

「そのダーカーは僕が仕込んだものでね…植え付けてやったのさ、特殊なダーカー因子をね……但し、それは植え付けられた本人を侵食するものじゃない……!!」
「まさか……!!」

えくれあが苦悶の表情を浮かべながらルーサーを睨み付ける。

「そう…そのダーカー因子は植え付けられた者を通じてその子供に侵食する…僕の計画通りにね……!!」
「じゃあ、わたし達は……っ!!」
「そうさ、君達は僕の実験体ッ!!……まさかここまで適合して長く生命を繋ぎ止めるとは思わなかったがね。君達の才能、というべきかな?僕の実験では、長くても10年程度で生命を落とす素体ばかりだったからね……。」
「この外道が……!!」

フェデルタは憎々しげに吐き捨て、腰の《デュアルバード》を引き抜いた。

「ふん、君達の相手をするのは僕じゃない。言っただろう?ここには僕の実験体が『全て』揃っていると……ッ!!」

ルーサーが再び指を鳴らす。すると、虚空から突如、長い金髪を靡かせた1人の女性が出現した。



「君達には馴染みのある相手だろう…存分に戦うといい……。」
「嘘……っ!?」
「エリア…奥、様……!!」
「何ですって……!?」

ルーサーの言葉にフェデルタ、えくれあ、エーテルが驚愕の表情を浮かべる。

「で、でも!!えくれあさん達のお母さんって、昔亡くなったって聞きましたけど……」
「これも僕の実験の成果さ…君達にも分かるように言うならば、死した肉体を機械化し、『キャスト化』する計画……君達の母親は立派に結果を出してくれた…さぁ、僕の命に従い、侵入者を殺せ……ッ!!」

ルーサーの言葉に反応して、エリアが動き出す。

「…オーヴァ。殲滅、開始。」
「そんな、お母さんっ!!」
「迷ってはダメです、来ます…!!」

涙目になるエーテルをフェデルタが一喝する。その時にはもう、エリアが放った《フォイエ》が真っ直ぐに解き放たれていた。

「くっ…!!」

えくれあが《ジャスティスクロウ》で応戦し、何とか《フォイエ》を打ち消す。それを確認したフィリアは腰の《ノクスシュディクス》を抜いて走り出した。

「(もし本当にえくれあさん達のお母さんなら助けないと…キャスト化したって言うなら、法撃は苦手なはず……!?)」

フィリアが《レーゲンシュラーク》でエリアに迫ろうとした瞬間、とんでもない速さの《メギド》がフィリアを襲った。

「嘘…あんなのキャストの法撃じゃない……!?」
「恐らくルーサーに何かしらの強化を施されているのでしょう…」
「どうした、お手上げかな……!!」
「黙れ……!!」

ルーサーの挑発に、えくれあが怒りを込めて答えた。両眼を真紅に染めたえくれあは、先の《メギド》に匹敵する速さでエリアへと飛び込んだ。

「私が産まれた時に、母上は死んだと聞いています。だから、いきなり現れて、しかもキャストのあなたが自分の母親だと言われても、正直実感はありません……!!」

《ヘブンリーカイト》でエリアを斬り上げながら、えくれあは叫んだ。

「けれど、あなたが何者であろうと…ルーサーの被害者であるならば救うまで…そして……!!」

無防備になったエリアに《ケストレルランページ零式》を叩き付けて、今度はルーサーに向き直る。

「ルーサー…あなただけは、絶対に許しません……!!」

ルーサーは、えくれあの言葉をただニヤニヤしながら聞いていた。その時、何かに気付いたエーテルが叫んだ。

「えくれあちゃんっ!!」
「!?」

えくれあが振り返ると、エリアの両手には法撃がチャージされていた。それも、ただの法撃ではなかった。

「バーランツィオンに…フォメルギオン!?何故……!?」
「いけない……!!」

咄嗟の事で反応が遅れたえくれあに、フェデルタが駆け寄った。《グリムバラージュ》でエリアを牽制しながら、そのままえくれあを抱き抱えて離脱していく。その直後、えくれあが居た場所には《バーランツィオン》の爪痕が刻み込まれた。エリアは尚もえくれあを追って《フォメルギオン》を旋回させようと試みる。

「お願い……やめてえええええええええっ!!!!!」

エーテルは泣き叫びながら《シャープボマー零式》を放った。矢はエリアの足元に着弾し、爆風でエリアは大きく後方に吹き飛ばされていく。照準が逸れた《フォメルギオン》は、えくれあの頬を掠めて空を切った。

「奥様…失礼します……!!」

フェデルタは吹き飛んでいったエリアに素早く駆け寄り、勢いを付けたまま《デッドアプローチ》を叩き込んだ。腹部パーツを殴打されたエリアは、力なく地面に崩れ落ちた。



「お母さんっ!?お母さんっ!!」
「落ち着いて下さい、エーテルお嬢様。命までは奪っていません。」
「フェデルタお兄ちゃん……」

フェデルタの言葉に、エーテルと一緒になって安堵するフィリア。しかし、今度はそのフィリアにルーサーの悪意が牙を剥いた。

「へぇ、いいのかいお嬢さん?」
「え……?」

きょとんとするフィリアに、ルーサーが問い続ける。

「そのキャストの女は僕の実験の集大成の一つと言っていい……そしてその礎には、君のお兄さんも大きく貢献しているんだよ…?この女の失敗は、つまり君のお兄さんの存在も無駄になる訳だが……」
「……!?」

突然出てきた自分の兄の話に、言葉を失うフィリア。

「あなた…フィリアさんの兄上に、何をしたのですか……!?」

えくれあが怒りを更に強めて問い詰める。

「なぁに、簡単な話さ……死体をキャスト化するのはいいが、一度死んだ脳を復元して動かすのは難しい。だからその前に試したのさ、『死体に全く新しい別の人格を植え付けてキャスト化する』ことができないか……」

ルーサーは言いながらフェデルタの方をちらりと見やった。その瞬間、えくれあの頭の中で何かが閃いた。

「貴様……まさか……!!」
「……ははははははッ!!そうさ!!そこのお嬢さんの兄を殺して別の人格を植え付けてやったのさッ!!それがお前だよフェデルタッ!!お前は実によくやってくれたッ!!僕の実験経過を一番間近で見届けながら、常にデータを僕に送り続けてくれたのだからッ!!」

ルーサーが叫んだ瞬間、ドサリと音がした。えくれあ達が振り向くと、そこには膝を付いて茫然としたフィリアの姿があった。

「う…そ……?お兄ちゃん、が……死んだ……?」
「死んでは居ないよお嬢さん…見たまえ、君の兄はそこにいるじゃないかッ!!……まぁ、中身は完全な別物だがね。」
「あ……ああ……」
「…人間じゃない……人間の、やる事じゃない……」
「そんな…そんなの……ひどいよ……」

えくれあは真紅の両眼に恐怖の色を浮かべながら呆然とルーサーを見つめている。エーテルが流す涙は、真紅の瞳に反射して血のように赤く光っていた。

「僕が……フィリアさんの……兄…ルーサーの、実験体……?」
「……て………めて………めろ………!!」
「フィリアさん…?」

フェデルタが絶望した表情でフィリアを呼んだ瞬間、フィリアは豹変した。

「やめろおおおおおおおおおおおお!!!!!その声で私を呼ぶなああああああああ!!!!!!!返せッ!!!!!お兄ちゃんを返せええええええええええええええええええええええええッ!!!!!!!


フィリアは絶叫しながらフェデルタに向かって突進していく。その両手には、双小剣《ノクスネシス》が握られていた。

「ああああああああああああああああああああああッ!!!!!」
「ふははははははははッ!!!人間とはこうもあっさり壊れるかッ!!面白い、長い人生これくらいの余興が無ければつまらないッ!!さぁ踊れ人間共、全ては僕の思うがまま……ッ!!!」
「ルーサー、貴様ああああああああああああ!!!!!」

怒りが臨界点に達したえくれあの身体から、爆発的な量のフォトンが溢れ出す。同時に、フェデルタの元へ辿り着いたフィリアが双小剣を振り上げた。

「お兄ちゃんを返せえええええええええええええええ!!!!!!!」
「ぐっ……」

フィリアが力任せに叩き付けた《レイジングワルツ零式》を、フェデルタはそのまま受け止めた。フェデルタの身体は大きく吹き飛ばされていく。

「フェーくんっ!!」
「……僕は、どうすればいい…フィリアさん、僕は君に…何と言えば……」
「黙れえええええええええええッ!!!!!」

フェデルタの言葉を遮るように、今度は《クイックマーチ》で蹴り上げる。大きく打ち上げられ、そのまま叩き付けられたフェデルタの身体から、パーツが砕ける嫌な音が響く。

「…黙ることはできない。何故かは分からないけれど、僕は君に殺される訳にはいかない……!!」
「それ以上ッ!!!お兄ちゃんの姿で動くなッ!!喋るなッ!!!!お兄ちゃんを奪うなあああああああああああああッ!!!!」

フィリアは素早く銃剣を取り出し、《シュトレツヴァイ》でフェデルタに肉薄する。しかし、フェデルタはその斬撃を甘んじて受け止め、フィリアの腹部に掌底を叩き込んだ。

「ぐっ……」
「すみません、フィリアさん…でも、まずは奴を…ルーサーを……うっ……」

フィリアが昏倒して倒れ込むのと同時に、フェデルタもその場に崩れ落ちた。ルーサーはもはや2人には興味が無いと言わんばかりに無視し、エリアの身体をどこかへ転移させた。

「あっ……」
「つまらん余興だ。さて、君達は何を見せてくれる……?」
「…許さない。」
「何……?」

えくれあが呟きながらゆっくりとルーサーに向かって歩いていく。

「貴様だけは絶対に許しません、ルーサー。人の命を弄び、心を弄び……たとえ刺し違えたとしても、私は……!!」
「許さない、だと……たかが実験体の分際で、僕を裁くというのかッ!?この僕をッ!!………面白い、ならば教えてやろう。僕の……我が力を……ッ!!」

言い終えたルーサーはだらりと手を垂らした。やがて、その身体はフォトンに包まれ、瞬く間にその姿を邪悪な異形へと変化させていく。

「教えてやろう、我が名はルーサー…ダークファルス・ルーサー、全知を識る者だ……ッ!!!」
「笑わせるな…人の心の痛みも知らない貴様が全知だと……私は、認めません!!!!」

姿を変えた《ダークファルス【敗者】》の口上を真っ向から否定して、えくれあは愛剣《ブランノワール》を向けた。そこへ、【敗者】の腕が容赦なく振り下ろされる。えくれあが受け流そうとしたその時、眩い閃光が腕を弾いて逸した。

「えくれあちゃんは、死なせない……わたしが守るから……みんなを守るえくれあちゃんは……わたしが守ってあげなきゃいけないんだ……っ!!」

エーテルは涙が光る真紅の双眸を拭って、再び右手をかざす。放たれた《ラ・グランツ》は激しく輝く閃光の矢となって【敗者】の右腕を貫いた。

「実験体風情が…ッ!!」

【敗者】は口から赤黒いエネルギー弾を生成し、エーテルに向けて吐き出した。

「姉さん!!」
「うん……っ!!」

エーテルは《イル・ゾンデ》を放ち、エネルギー弾をかわしながら【敗者】の右腕に詰め寄っていく。

「覚悟……!!」

えくれあも《ディストラクトウィング》で右腕を斬り付け、その勢いのまま腕に飛び乗って更に上へと駆け出していく。

「ふん……ッ!!」

【敗者】は邪魔な虫でも払うかのように、左腕の剣を振るってえくれあ達を斬り払おうと試みる。

「そんなものが…っ!!」
「当たってたまるものか…!!」

迫り来る剣をかわした2人は、狙いを【敗者】の右肩に絞った。

「裁け、ジャスティスクロウ…!!」
「吹きとばせ、シャープボマーっ!!」

2人の渾身の一撃を受け、【敗者】の右肩の装甲が砕け散る。

「何ッ!?」
「今です!!」
「一気に行くよっ!!!」

思わぬ衝撃に怯む【敗者】。その隙を逃さず、二筋の紅い閃光が駆け抜ける。

「閃け、スターリングフォール…!!」
「撃ち抜いて、ラ・グランツっ!!」

えくれあの《スターリングフォール》とエーテルの《ラ・グランツ》は、【敗者】の首元のコアを貫いた。

「やった…っ!?」
「……余り煩わせるな……」
「くっ……!?」
「…面倒だ。」
「うわっ!?」「きゃあっ!?」

完璧な攻撃に一瞬油断した2人の隙を、強大なダークファルスは決して見逃さなかった。居合い斬りのような動作で素早く振るわれた剣に、あっけなくなぎ倒されるえくれあとエーテル。

「くっ……」
「全然効いてないの……っ!?」
「演算の必要も無い…ッ!!」

【敗者】は追い打ちを掛けるように剣を大きく横に薙いだ。

「姉さん!!」
「えくれあちゃんっ!!」

えくれあは素早くエーテルに駆け寄り、力任せに上へ放り投げた。同時にエーテルは右手に《ゾンディール》を発動させ、舞い上がりながらえくれあを空中へと引き寄せる。そのすぐ下を、【敗者】の剣が通り過ぎていく。

「今度は……!!」
「こっちの番っ!!」

えくれあは《ディストラクトウィング》でそのまま【敗者】の腹部へ飛び込んでいく。エーテルは《イル・バータ》を放ち、同じく腹部に氷の紋様を刻んだ。

「見え透いた解答だなッ!!」

【敗者】は2人を引き裂こうと、剣を持った両手を大きく横に広げる。

「それはこちらの台詞です…!!」
「わたしにだってバレバレなんだよっ!!」

えくれあは《ヘブンリーカイト》で舞い上がり、エーテルは真下に《フォイエ》を放った反動で浮き上がり、再び《イル・バータ》を放った。

「…イレギュラー共が。ならば教えてやる…ッ!!」

【敗者】は一度大きく距離を取り、高らかに叫んだ。

「深淵と崩壊の先に、全知へ至る道があるッ!!」
「っ!?」
「何か来る…!!」

身構えるえくれあとエーテルなど意に介さず、ルーサーは続けた。

「我が名はルーサー…全知そのものだ……!!」

その瞬間、時が止まったかのように周囲は静寂に包まれた。

「(これは…!?)」
「(身体が…動かないっ!?)」

声も出せず、身動きも取れなくなった2人は、ただ為す術無くルーサーが召喚した剣が上空に並んでいくのを眺めていた…そして。

「かはっ…」「げほっ……」

目にも留まらぬ速さで剣は降り注ぎ、2人の華奢な身体を激しく貫いた。両手では覆えない程の範囲に鮮血が飛び散り、2人は小さな呻き声だけを上げて地面に崩れ落ちた。

「…どうだ、理解できたか?これがダークファルス…全知たる僕の力だ…。」

優越感を滲ませた声で、異形と化したルーサーが囁く。

「やはり、私達では……ダークファルスには……っぐ…」
「そんな……ここで…終わりなんて……っ……」

痛みで動けない2人に、無情なるダークファルスの刃が迫る。

「壊れた玩具に用は無い…消えろ、そこのゴミ共と一緒に……!!」

そして、再び上空から【敗者】の剣が降り注いだ。2人は必死に身体を起こし、倒れている2人を見つめた。

「そうだ……戦ってるのは……っ!!」
「私達だけじゃ…ないんです……!!」

剣が突き刺さる瞬間、2人の身体はようやく動きを取り戻して間一髪で刺突をかわした。同時にエーテルは手近な【敗者】の腕に《イル・バータ》を放ち、えくれあは《レスタ》を放ちながら駆け出した。

「フェデルタさん、フィリアさん……!!」
「間に合って…っ!!」

2人の元に降り注いだ剣が落ちる寸前、えくれあはフェデルタとフィリアの身体を掴んでそのまま前方に倒れ込む。その一寸後ろに、【敗者】の剣が突き刺さっていった。

「間に合った…っ!!」
「まだあがくか……っ!!」

苛立った声を発する【敗者】に、えくれあが叫ぶ。

「当然です…フェデルタさんは私達や母上の為、フィリアさんも兄上の為に今まで必死に戦ってきたんです…父上とて同じ、今は私の仲間達と共にエルダーと戦っているはず……みんな、自分が守りたいものの為に必死に戦っているんです…私達だけが、諦める訳には…行きません!!」
「守りたいものだと……?」
「そうだよっ!!そんな事も分からないのっ!?みんな自分の大切な人のために一生懸命頑張って生きてるのっ!!そんな事も理解できないあなたなんかに……わたし、絶対ぜーったい負けないからっ!!」

エーテルも割れんばかりの声で叫びながら愛杖《ビビッド・ハート》を構えた。

「さぁ、覚悟しなさいルーサー…己を見失い、人を理解できなかった貴様に、私が…私達が、貴様の知り得ない答えを教えてあげましょう!!」
「僕の知らない解…あり得ない、あり得ないあり得ないあり得ないッ!!」

【敗者】は激昂して両腕を振り上げた。

「全知は僕だッ!!僕が導き出せない解などありはしないッ!!」
「まだ言いますか!!」
「この分からず屋っ!!」

【敗者】の両腕が、えくれあ達の立つ地面を乱暴に叩き付ける。えくれあは飛び退って躱し、エーテルも《イル・ゾンデ》で腕を掻い潜って《イル・バータ》を放った。

「見苦しいッ!!」

攻撃を事もなく躱された【敗者】は、上空に無数黒いフォトンの刃を生成し、矢継ぎ早に振り下ろしていく。

「見苦しいのは!!」
「どっちの方なのさっ!!」

えくれあは紅いフォトンの刃を大量に放って応戦し、エーテルは《ギ・グランツ》で迫り来る刃を次々薙ぎ払った。

「やられてばっかりはっ!!」
「趣味じゃありません…!!」

黒い刃を防ぎ切った2人は、エーテルの《イル・バータ》を皮切りに攻勢に転じた。えくれあの《イモータルターヴ》とエーテルの《グランツ》に左腕を撃ち砕かれ、【敗者】は堪らず動きを止める。

「裁きの双刃、スターリングフォール…!!」
「刻んで、イル・バータっ!!」

露出したコアに連続で攻撃を叩き込まれる【敗者】。

「それっ、ワンモアっ!!」

エーテルが再び《イル・バータ》を放つと、大爆発と共にコアが砕け散っていく。

「僕の解に間違いが…いやあり得ない…あり得るはずがないッ!!!」

声に苦痛を滲ませながら、【敗者】は再び距離を取って叫んだ。

「今こそッ!!全知を掴む時ッ!!」
「二の轍は…」
「踏まないよっ!!」

エーテルは《シフタ》を、えくれあは《デバンド》放って身構える。

「我が名はルーサーッ!!全知そのものだッ!!」
「見切った!!」
「そぉれっ!!」

えくれあは降り注ぐ刃を《ディスパースシュライク》で躱しざまに斬り付け、エーテルは《シャープボマー零式》で着弾点から逃れながら爆風で刃を相殺した。

「イレギュラーが………ッ!!!」
「みんなの想いを…っ!!」
「この剣に乗せます……!!」

怒りに震えながら近寄ってくる【敗者】を、2対の真紅の瞳が見つめ返す。

「支えて、ザンバースっ!!」
「舞え、ヘブンリーカイト…!!」
「があああああああッ!?」

【敗者】の腹部に、エーテルの《ザンバース》を纏った《ヘブンリーカイト》が襲う。時計のような形状をした腹部は斬り開かれ、中からは赤黒いコアが露出する。

「えくれあちゃんっ!!全力でいくよっ!!」
「……はい!!」

えくれあの双剣が、エーテルの両手が、眩く輝き出した。

「閃光と共に散れ、ケストレルランページ!!」
「闇を照らしてっ、バーランツィオンっ!!」

姉妹の全身全霊の連撃が、狂気を裁くが如く光となって降り注ぐ。

「バカな、こんな事が…ッ、があああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!!」



やがて光が消え去り、その空間にはえくれあ達だけが残されていた。

「勝った……?」
「そうだよ…勝ったんだよ、わたし達っ!!ダークファルスにっ!!」
「信じられない…まさか……」

えくれあは今しがた自分達がしたことが理解できないといった様子で【敗者】が居た虚空を見つめていた。

「…そうだ、フェーくん達っ!!」
「あぁっ!?」

2人は慌てて倒れているフェデルタ達の元へと向かった。

「フェーくんっ!!」
「…お嬢様……その眼は…」
「…大丈夫です。もう、前のようにはなりません。」

えくれあの言葉に、フェデルタは安堵の表情を浮かべた。

「そう、ですか…ルーサーは……?」
「大丈夫だよっ!やっつけたの、わたし達がっ!!」
「…そうですか。流石は、お嬢様方ですね…奥様の事は…?」
「…分かりません。でも、必ず見つけ出して救ってみせます。もう、ルーサーは居ないのですから…!!」

2人の言葉を聞いたフェデルタは、安心した様子で目を閉じた。

「…ねぇフェーくんっ?そういえばフィリアちゃんはどこっ?」
「え…?近くに、居ないのですか…!?」
「わたし達が来た時にはもう居なかったよ…っ?」
「まさか、ルーサーの言葉にショックを受けて……!?」
「フィリアさんの、お兄様…僕が……」

一転、沈痛な表情を浮かべるフェデルタ。

「…と、とにかく一旦帰ろうっ?フィリアちゃんのこともここに居たら分からないし、フェーくんは手当てしなきゃだし、みんなの事も心配だしっ、」
「私達は…まず自分の心配、ですね…もう、限界です……」

力を使い切った様子のえくれあは、今にも倒れそうにふらふらとしていた。

「…僕は何とか1人で歩けます。エーテルお嬢様は、えくれあお嬢様を支えてあげてください。」
「うん、分かったっ!!……って、あれれ…?」
「……私も自分で歩きます。姉さん、キャンプシップまでは頑張ってくださいね…。」

こうしてお互い身を寄せ合うようにしながら、3人はキャンプシップへと歩き出した。そしてその頃……。



「………。」

えくれあ達のキャンプシップの操縦席に座り、虚ろな目をしながらシップを操作する、少女。

「…………。」

間もなくシップは惑星・ナベリウスに到着した。

「……………。」

フィリアは無言のまま、ふらふらと夜の森林の闇へと歩を進めていく。

「「ワオオオオオオン!!!!」」
「………………。」

獲物の匂いを嗅ぎ付けたのだろうかそこへ、2頭の《フォンガルフ》が現れた。2頭は頭部に侵食核を付けていたが、それを見た瞬間、フィリアの様子が一変した。

「…………………!!!!」

虚ろな目に深い殺意を宿らせた彼女は、双小剣《ノクスネシス》を抜いた。そして迫り来る《フォンガルフ》達に躊躇わず振り下ろし、その首を乱暴に胴体から引き剥がした。


「……………………。」

飛び散ってかかった返り血さえ気に留めず、再び少女は歩き出す。そして森林奥深くの闇に同化し、やがてその姿を消したのだった………。