始動、Re:Busters!!

オラクル船団に所属するアークスシップ「フェオ」。その内部に多数存在するチームルームの中の1つに、月夜に照らされた1人の少女の姿があった。

「………。」

黒い衣服を身に纏った少女・えくれあは、ルームと外観を繋ぐ縁に腰掛けて無言で月夜を眺めている。

「(私は…どうなってしまったのだろう……あの時、私は一体……?)」

えくれあは無言のまま、右手を空に浮かぶ月へと伸ばしていく。届くはずもないその淡い光へ、まるで…何かにすがるかのように。すると、そんな彼女の耳にコツコツと足音が響いてきた。

「…えくれあちゃん、ここに居たんだ。」
「……姉さんですか。どうしたんです、こんな遅くに。」
「それはこっちのセリフだよ、早く寝ないと皆が心配するよ?」
「えぇ…ですが、眠れなくて…。」
「この前の、任務のことかな…?」
「……はい。」

エーテルはえくれあの隣に腰掛けると、先程えくれあがしていたのと同じように月に手を伸ばした。

「わたし、えくれあちゃんってすごいと思うんだ。1人でアークスになって、色んなチームで仕事をして、強くなって。わたしなんか、えくれあちゃんに色々教えてもらったり助けてもらったりしてるのにまだまだ全然でさ。でも、えくれあちゃん…最近無理してるんじゃないかなって。」
「私が、無理を…?」
「うん。チームを転々として、自分でチームを立ち上げるって聞いた時はびっくりしたけど、ちゃんと人を集めて皆でチームを盛り上げようとして、少し頑張りすぎてる気がするんだ。もっと、皆を頼って、良いと思うんだ…?」
「……そう、でしょうか。」

えくれあは姉の言葉を噛み締めるように聞いていた。しかしそれでも、彼女の心を軽くするには至らず、その表情は依然不安を纏ったままであった。

「わたし、戦うのは正直苦手。敵は怖いし、危ないのは嫌だし…でも、えくれあちゃんが殺されちゃうかもって思った時、わたし今までで一番怖かったの。あの時は、ライアさんって人が怖くて何もできなかったけど、わたしも頑張るから…!!」

エーテルは涙目になりながらえくれあに訴えかける。

「だから、もう1人で無理しないで……!!」
「………。」

えくれあは、答えなかった。そして、ゆっくりと立ち上がると、チームルームの出入り口の方へゆっくりと歩いていく。

「えくれあちゃんっ!!」
「……今日はもう遅いです、もう寝ましょう……。」
「あぅ……」

背中越しに言い残したえくれあはチームルームを去り、自室へと戻っていく。チームルームには、妹を想う優しき姉と、彼女の頬を流れる一筋の涙だけが取り残され、夜空に浮かぶ満月が彼女を静かに見守っていた。



翌日、姉妹が語り合ったチームルームの縁に白い衣服を纏い、それと同じくらい白い髪をショートに仕立てた少女が1人立っていた。

「天候は良好。今日も仕事日和です。」

誰ともなしに呟いたその少女は、大きく深呼吸をすると左手に持っていた抜剣を腰に備え付けた。そこへ相変わらずの黒装束を纏ったえくれあもやってきて、2人はお互いに会釈を交わす。

「おはようございます、すずしろさん。今日はお一人ですか?」
「あ…おはようございます。クロ姉も連れてこようと思ったのですが、起きなくて……すみません。」
「今日は集合日でもありませんし、お気になさらず。」

そう告げたえくれあはすずしろの隣に立ち、小さく1つ息を付く。2人の間に微妙な沈黙が流れる。しかし、間もなく大きな足音と共に銀髪のツインテールの少女がエーテルと一緒にスキップしながらチームルームに入ってきた。

「ふっふっふ、えくれあちゃん、すずしろちゃん…きみ達はミスを犯したッ!女性限定、春の朝食スイーツキャンペーンの初日に乗り遅れるとはまだまだ修行が足りないよッ!!」
「パンケーキにパフェにソフトクリームっ!!初日限定のフレーバードリンクもあったのに、朝起きたらえくれあちゃんもう居ないんだもんっ!!!」
「いや、朝はご飯派ですし早朝の稽古に行ってましたから…」
「おはようございます、エオリアさん、エーテルさん。あの、でもそれは…」
「「朝食とは、言わないのでは……」」

朝からスイーツをたっぷり堪能して上機嫌のエオリアとエーテルに、若干引き気味のえくれあとすずしろ。対照的なテンションの4人が挨拶をしている最中、もう1人チームルームにやってきた人影があった。

「おはようございます……うわっ!!」
「おはよーリアンくんっ!!」
「リアンくん!おはよう!!」
「ちょっ、苦し、あのっ、マスター、すず姉さん、助けて…っ!!」

白いコートに身を包んだその少年・リアンは、入ってくるや否やエーテルとエオリアにWで抱きつかれて窒息しかけている。必死にえくれあとすずしろに助けを求めるが、2人はそれを放置し、顔を見合わせて苦笑いしている。

「おはようございますリアンさん。今日も人気者ですね。」
「……はぁ、そろそろやめてあげてください。リアンさん、もう顔真っ青ですよ?」
「うわっ、ごめんごめんっ!!」
「はッ!わたしとした事がやり過ぎたか!!」
「う~助かった~…。」

ようやく解放されて荒げた呼吸を整えるリアン。それを見てにこやかに笑う仲間達。チーム『Re:Busters』の日常がそこにあった。

「そういえば、リアちゃんもアルちゃん達一緒じゃないんだねっ?」
「リアンさんも、シルファナさん達と一緒かと思っていましたが…?」

エーテルとえくれあがふと疑問を口にすると、エオリアとリアンが口々に答える。

「アル達は別の仕事に行ったきりだよ!まぁ、あの程度の仕事、長女の私が出るまでも…くくく…!」
「リア姉さん、悪い笑い方するね~…あ、シーナ姉さん達も別の仕事だよ!まだもうしばらくかかるみたいに言ってた!!」
「なるほど、そうでしたか。」
「みんなあちこちで大活躍だねーっ!!」

和気藹々と談笑するチームメンバー達。その時、突如としてえくれあの持つ端末からメールの受信音が鳴り響く。

「えくれあさん、端末が鳴っていますが…。」
「えぇ、なんでしょう……っ!?」
「どうしたのですか…?」

不安そうに覗き込むすずしろに、えくれあは無言で端末に表示されたメールを見せる。

「私達に出撃要請…ですか?」
「ええ。龍祭壇で大量に侵食されたエネミーが出現しているようです…。」
「おっ、私達りばすたの実力を見せつける時が来たようだね…!!」
「……えくれあちゃん?」

初のチームへの出撃要請に各々盛り上がる仲間達。しかし、1人顔色の良くないえくれあに気付いたエーテルがすかさず声をかける。

「……この任務…じ、」
「辞退する…なんて言わないよねっ?」
「姉さん…でも……!!」
「えくれあちゃんっ!!よく見てっ!!」

そう叫んでえくれあの肩を揺さぶるエーテル。えくれあは突然の姉の挙動に驚いて目を見開く。

「えくれあちゃんは、1人じゃないんだよっ!!今は…みんながいるんだよっ!!」
「っ……!!」

エーテルの言葉に応えるように、仲間達もえくれあに笑顔を見せる。

「ぼ、僕はまだまだお姉ちゃん達みたいにはできないけど…一緒に頑張るよ!」
「この前怪我して帰ってきたって言ってたのが気になるのかな~えくれあちゃん?でも大丈夫、このエオリアにまっかせなさいッ!!」
「エオリアさんの言う通りです。私達が命に換えても守ります。」
「…わたしも、怖いよ。もしこの前みたいになったらって思ったら…でも……」

エーテルは震えるえくれあの手を握り締め、そっと自分の胸元に抱き寄せる。

「皆がいるから。わたしも、頑張るから…!!だから、一緒に行こう…?」
「……分かりました。」

えくれあは姉に諭されるまま、静かに息を吸い込んだ。手の震えが徐々に治まり、やがて彼女は紅と碧のオッドアイを力強く見開いた。

「取り乱してしまい、申し訳ありませんでした…。Re:Busters、これより出撃します……!!」


それから数時間後、『Re:Busters』一行は惑星アムドゥスキアの龍祭壇へと足を踏み入れていた。

「対象確認、殲滅します。」
「これならどう!?」
「え、えいっ!!」
「うわぁ、みんなすごいね~っ!!」
「はい、見事なものです。」

メンバー達は、侵食が進んだ龍族達を物ともせず殲滅していく。エーテルはおろか、えくれあですら割って入る隙が無いほどの軽快さだった。殲滅と前進を数度繰り返した頃、えくれあ達の進行方向から逆走してくるアークスの男が現れた。

「おいお前ら!何やってる!!ここは女子供の来るところじゃねえぞ!!」
「む、失礼だなぁ~。私達はれっきとした仕事で来てるんだけど!?」
「仕事だぁ!?お前らがか!?」
「うんっ!みんなとっても強いんだよっ!!」

エオリアとエーテルの反撃に口をつぐむアークスの男。しかし、次に発せられた言葉でえくれあの表情が変わる。

「…まぁいい。どの道この先に行っても仕事はねえよ。どうせあいつらが全部やっつけちまうだろうしな。」
「あいつら…とは?」
「さっき俺がピンチだったのを助けてくれた奴らだよ。やたら声のでけぇキャストのおっさんと紫のニューマンの女の子だ。何でも他にも仲間がいるらしいが、あいつらだけでも一瞬でエネミー蹴散らしてたからな……。」
「声の大きいキャストのおじさんと、紫のニューマンの女の子…あれ、それって…?」
「……分かりました。ご忠告は感謝しますが、道を空けてもらいましょう。」
「お前なぁ……ッ!?」

男がえくれあの強情さに顔をしかめた次の瞬間、えくれあの背中の《ブランノワール》が閃き、男の首筋にあてがわれた。

「私達はここの龍族を鎮圧するために来ました。あなたが言うその方々がどれほどの者かは知りませんが、私達は私達の仕事をするだけ…それを邪魔すると言うのであれば……!!」
「分かった!!分かったよ勝手にしろよ!!何なんだよ畜生………!!」

えくれあの剣幕に慄いた男は、すごすごと身を引き、えくれあ達が来た道を戻っていった。不快そうに愛剣を収めるえくれあを、すずしろが心配そうに眺める。

「えくれあさん、どうしたのですか?何もあんなに怒らなくても……。」
「…いえ、何でもありませんよ。すみません、急ぎましょう。」
「えくれあちゃん…。」

そう言ってすたすたと歩いていくえくれあ。エーテル以外の仲間は訳がわからないと言った様子で、足を速めたえくれあの後を追うのだった。



その後は特に変わったこともなく、次々と龍族達を鎮圧し続けたえくれあ達。そろそろあらかた反応を抑えたかと思ったその時、えくれあがふと足を止めた。

「……何か、聞こえませんか…?」
「え、何かって何、マスター…?」
「わたしも何も聞こえないけど~…?」
「……!?いえ、何か来ます。皆さん戦闘準備を。」

すずしろの声で武器を構える仲間達。するとそこへ、上空から何かが降ってきて、突き刺さった。

「こ、これは……クォーツ・ドラゴン!?」
「ち、ちょっと!?何でこんなところにクォーツなんかが!?」
「わかんないよ~っ!!ってうわぁこっち来るよっ!?」
「ふええ、どうしよう…!!」
「標的、クォーツ・ドラゴン。戦闘開始します、えくれあさん。」

すずしろは早くも腰の抜剣に手を掛けて《クォーツ・ドラゴン》に向かっていく。えくれあも少し後を追うようにして駆け出した。すずしろの《グレンテッセン》とえくれあの《ディストラクトウィング》が《クォーツ・ドラゴン》の両翼に命中するが、その硬い翼はびくともしない。

「…硬いですね。」
「頭角を折れれば理想ですが、迂闊に近づくのは…!!」
「ち、近づけないなら…!」
「近づかなければいいのだッ!!」
「うんっ!サポートは任せて、シフタっ!!」

今度はエーテルの《シフタ》を受けたリアンとエオリアが狙撃を開始する。エオリアは愛用の双機銃から長銃に持ち替えて《ウィークバレット》を放つ。見事に命中した頭角へ、今度はリアンの放った《ペネトレイトアロウ》が突き刺さった。

「えへへ、やった…!!」
「まだまだ終わってないんだよね、これが!」

命中したことに安心するリアンの横を、双機銃に持ち替えたエオリアが駆け抜ける。自らが弱体弾を当てた頭角へ《シフタピリオド》を放って追撃を試みた。

「エオリアさん、お見事です…!!」
「しかし頭角は健在ですね…。」

一方、『Re:Busters』の猛攻に怒りを爆発させた《クォーツ・ドラゴン》は大きく上昇し、空中から頭角を突き立てて猛突進を試みた。

「こっちへ来る…!?」
「くっ、まずいですね…!」
「えくれあちゃんっ!?」
「すずしろ姉さん!!」

《クォーツ・ドラゴン》の標的は、えくれあとすずしろ。しかし、空中から強襲される直前、エオリアが咄嗟に投げた《グラビティボム》に吸い寄せられ、2人は間一髪で難を逃れた。

「エオリアさん、ありがとうございます。」
「ふっふっふ…!良いってことよ!!」
「今度はこちらの番です……!!」

えくれあは立ち上がると同時に一気に《クォーツ・ドラゴン》へ肉薄し、《ブランノワール》を引き抜いた。その2本の刃はフォトンに包まれて青く輝いている。

「斬り刻め…ケストレルランページ……!!」

えくれあの《ケストレルランページ零式》が次々と《クォーツ・ドラゴン》の頭角に襲いかかる。

「マスターの必殺技だ!これで…!!」
「以前より随分と威力が上がっているようですが……。」

次々と繰り出される斬撃の後に、フォトンの奔流が降り注ぐ。その全てを撃ち切った時、《クォーツ・ドラゴン》の頭角は。

「なっ……!?」
「壊れて…ない!?」
「えくれあちゃんっ!!!」

無情にもその雄々しい頭角は健在のまま、《クォーツ・ドラゴン》は半歩後ろに下がった。そして、その頭角を突き付けてえくれあに向かって走り込んでくる。誰もが「間に合わない」と目を伏せたその時、後方から少女の高い叫び声が聞こえてきた。

「だめえええええええええええええ!!!!」

その声の主は猛然と《クォーツ・ドラゴン》に飛びかかり、《グランウェイブ》でその巨体を打ち返した。《クォーツ・ドラゴン》が怯んだところへ、さらに別の大音声の男の声が響く。

「ナイスだアイちゃんッ!!ウオオオオオオオオオオオオオッ!!!」

遥か後方からひとっ飛びで《クォーツ・ドラゴン》の元へと飛び込んだその男は、《ハートレスインパクト》で頭角目掛けて殴り込み、そのままへし折ってしまった。

「え、誰…?」
「……。」
「ヒーロー参上ッ!って空気だけど、ほんとに誰なの!?」

困惑する『Re:Busters』のメンバー達。その中でエーテルは目を輝かせてにこにこと手を振っている。そして、呆然とえくれあを振り返り、その男と少女は振り返って笑顔を見せた。

「えくれあ!!」
「久しぶりだなッ!!」



突然の乱入者に動揺していた一行だったが、ふと我に返ったえくれあがようやく口を開く。

「あ、Ailakさん、それにヴェルデさんも…どうしてここに…!?」
「ハーッハッハッハーッ!どうしたえくれあッ!!幽霊でも見たような顔をしおってッ!!」
「このまえぶりなの!わたしたちも、きょうはおしごとでここにきていたの!!」
「お~いっ、ヴェルデさんにAilakちゃ~んっ!!じゃあやっぱりさっきの人が言ってたのは2人の事だったんだねっ!!」
「エーテルも相変わらずのようだなッ!!無事で安心したぞッ!!」

Ailakとヴェルデに平然と打ち解けるえくれあとエーテルに、仲間達は未だに困惑と警戒の表情を浮かべていた。

「あの…マスター?」
「お取り込み中申し訳無いんだけど!!」
「そちらのお2人はどちら様でしょうか。」

えくれあとエーテルは、そこでようやく説明がまだ済んでいなかった事を思い出し、慌てて説明を始めた。

「これは失礼しました…こちら、ヴェルデさんとAilakさんです。」
「2人とも前に居たチームの人でねっ!とっても良い人達なんだよーっ!!」
「ハーッハッハッハーッ!ヴェルデだッ!よろしく頼むぞッ!!」
「Ailakっていいます。よろしくおねがいします、なの!!」

2人が自己紹介をしていると、後ろでうずくまっていた《クォーツ・ドラゴン》が再び動き出した。

「目標の生存を確認。えくれあさん、指示をお願いします。」
「弱っている相手に容赦は不要です。全力で殲滅を…くっ」
「む…えくれあ、お前どこか痛めているのか?」
「むりしちゃだめなの…!!」

心配そうにえくれあを覗き込む仲間達を見て、ヴェルデは意を決したように言い切った。

「よしッ!エーテルはえくれあを連れて下がって手当をしてやれッ!こいつは俺とアイちゃんと、そちらのチームの面々で何とかしようッ!!」
「なっ…ヴェルデさん、私もまだ戦えます…!!」
「無理はダメだよえくれあちゃんっ!ね、一緒に下がろうっ?」

エーテルに半ば引きずられるようにして下がっていく。『Re:Busters』の面々は半信半疑のまま、再び武器を構える。

「信用して、いいのですね。」
「まかせてほしいの!いっしょにがんばるの!!」
「まぁ、あの2人が信用してるんだから、私達も信用するしかないってことだね!!」
「うむ、期待には応えてみせようッ!!ハーッハッハッハーッ!!」
「は、はい!よろしくお願いします!」

戦闘態勢に入った5人に向かって、《クォーツ・ドラゴン》が再び突進の構えを見せる。

「俺とアイちゃんで両翼を抑えるッ!その隙に、奴の頭にとびっきりをお見舞いしてやれッ!!」
「まかせて、なの!!」
「…了解。攻撃準備完了です。」
「よし、このエオリアに任せなさいッ!」
「わわわ、出来るかな…!!」

一撃必殺を狙う一行へ、《クォーツ・ドラゴン》の凶悪な突進が迫る。同時に、ヴェルデとAilakもまた、クォーツ・ドラゴンの一撃を食い止めるべく立ち向かう。

「砕け散れッ!スライドアッパーッ!!」
「おまえなんか、こうなの!ヴィントジーカー!!」

ヴェルデとAilak、2人の渾身の一撃が《クォーツ・ドラゴン》の両翼を穿つ。翼を砕かれた怒りで叫びながらも、《クォーツ・ドラゴン》は身動きが取れずにもがいている。

「今だッ!!」

ヴェルデの叫びに、『Re:Busters』の仲間達が呼応する。

「いけ、ラストネメシス!」
「くらえっ、インフィニティファイア!!」
「…サクラエンド。」

リアンの《ラストネメシス》とエオリアの《インフィニティファイア零式》が、唸りを上げて《クォーツ・ドラゴン》の頭部に突き刺さる。そこをすずしろが《サクラエンド》で力一杯に断ち切る。すずしろが抜剣を鞘に収めるのと同時に、《クォーツ・ドラゴン》は力尽きて地面へ倒れ伏した。



龍祭壇の奥地からキャンプシップへと戻る帰り道。『Re:Busters』の面々の興味は、専らAilakへと集中していた。

「その歳でその実力とは見事なものですね。」
「ほんとに、僕の1つ下とは思えないな~!」
「その上この可愛さっ…!もはや反則だね!」
「あ、あんまりほめられるとはずかしいの…!」

3人からちやほやされて顔を赤くするAilak。その様子を、えくれあはぼんやりとした目で眺めながら歩いていた。そこへヴェルデが後ろから肩を叩いて声を掛ける。

「……。」
「どうしたえくれあッ!元気が無いではないかッ!!まだ傷が痛むのかッ?」
「あ…いえ、それは大丈夫です……。」

気のない返事をするえくれあに目を細めるヴェルデ。そして。

「……お前、何を焦っているんだ。」
「え…?」
「よいか、えくれあよ。」

ヴェルデは今度はえくれあの横に並び、前を向きながら続けた。

「お前が自分の実力に自信を失っている事は分かった。何があったかは知らんが、辛い思いをしたのは表情を見れば分かる。だがな…。」

無言のままのえくれあをちらりと見てから、さらに続けた。

「見てみろ。お前の仲間は、お前を信じて付いてきたんだ。えくれあ、お前が誰と誰を比べ、何と何を比べているかは知らんが……。」

ここでえくれあの頭をぽんと叩き、最後にこう告げた。

「お前はお前だ。それで良いではないか。仲間と、お前自身を信じて進んでいけばいい。」
「あ……」

えくれあが何かを言い掛けようと口を開く。しかし、その時ヴェルデは既に前方のAilak達に合流しており、その様子は先程までとは違っていつもの彼に戻っていた。

「全くアイちゃんは人気者だなッ!俺も話に混ぜてくれないかッ!!ハーッハッハッハーッ!」
「うわぁ!びっくりした~…」
「おじさん、さっきから思ってたけどほんっとうに声大きいんだから!!」
「少し、心臓に悪いですね…。」
「む、そうか?それは済まなかったなッ!!」

すっかり打ち解けた仲間達を見て、再び表情が暗くなるえくれあ。

「(私は…私の、存在価値は…どこに……)」
「大丈夫だよ。」

えくれあがはっとして見上げると、隣にはいつものようにエーテルが並んで歩いていた。

「大丈夫って…何がです……?」
「えっ?りばすたの皆もAilakちゃん達と仲良くできるよって意味だったんだけど…ほら、えくれあちゃん怖い顔して見てたから心配だったのかなってっ!!あれ、違ったっ!?」

とんでもなく的外れな事を言う姉に、えくれあは思わず吹き出した。

「…っぷ、っくくく、あはははは。別にそんな事は気にしていませんよ、本当に、姉さんって人は……っくく。」
「えっ、ちょっと笑いすぎだよえくれあちゃん!!」
「あははは、すみません……でも、ありがとうございます。」
「えっ?」
「…!!な、何でもありません。」
「?」

えくれあはエーテルの問いには答えず、どこか慌てたように前の集団を走って追いかけていく。エーテルは首を傾げたが、考えても仕方ないと結論付けると、結局後を追いかけて走り出した。えくれあの新設したチーム『Re:Busters』。その第一歩となる鎮圧任務は、かつての仲間の助力を得て何事も無く終わりを告げた。しかし、この珍しくも無い1つの任務が、やがて2人の姉妹とその仲間達をとりまく大きな波の小さな兆しであることは、誰が知る由もなかった……。